やせすぎているのに太るのが怖い
神経性やせ症、神経性過食症に共通していえることは、体重が増えることへの恐怖です。
前回の健康診断でやせすぎと言われていた人は、体重計に乗るときには、体重が増えていなかったらどうしようと思って、少しどきどきするでしょう。実際に測定してみて、体重が多少増えていたら「体重が増えてよかった」と思うはずですが、摂食障害を持つ人は、極端なやせがある状態でも、「体重が増えていたらどうしよう」と思ってどきどきするのです。
たとえば身長160センチメートル、体重38キログラム前後がずっと続いている人を考えてみましょう。この人が今回の測定で体重40キログラムになったとすると、それでもまだまだ低体重ですが、本人は、越えてはいけない一線を越えてしまった、といった恐怖を感じるのです。
体重が増えることへの恐怖、摂取カロリーを過剰に気にする傾向は、これらの病気を持つ人に共通してみられます。これだけだと、これらの病気を持つ人は皆、病的なやせに至るのでは、と想像してしまいますが、神経性やせ症の人の一部と、神経性過食症を持つ人のすべてでは、それに加えて、自分でコントロールすることのできない、極端な「過食」が起きます。
「過食」のときは、患者はいつもと別人のような様子になります。過食をすれば当然、体重は増えますので、患者はますます通常の食事を制限しようとしたり、さらには自分で嘔吐を誘発したり、緩下剤を使ったりすることで、体重を減らそうとします。
精神科の病気が直接の死因になりうる難しい病気
ところで、病名としての定義上は、結果として著しい低体重がある場合を神経性やせ症、低体重がない場合を神経性過食症として区別しています。
精神科の病気は、病気そのものによって直接に死に至ることはなくても、「生活習慣病が合併する」、「健康診断の機会を逸する」などなどの理由で、平均寿命が短くなることがあります。このような意味での寿命損失が起きる病気の代表が、統合失調症です。
それはもちろん大きな問題なのですが、摂食障害、特に神経性やせ症については、低栄養から急死に至ることがあるため、「精神科の病気が直接の死因となりうる」、とても難しい病気です。
現在、精神科の入院患者の大半は、精神科病院という、精神科のみがある病院に入院します。しかし、身体の治療も重要な要素となる摂食障害の場合には、内科が併設されていない精神科病院ではその治療が難しいことが多く、総合病院の精神科への入院が、より適しているということになります。
ところが、総合病院の精神科であっても、ほとんどの場合、入院中に内科や外科ほどの手厚い診療や看護を受けることができないのです。
なぜなら、「精神科に入院する人は、身体は元気だろうから、他の科ほどの複雑な検査や治療、手厚い診療は必要ないだろう」という古い考え方のもとに医療制度がつくられており、そのため、精神科への入院は入院患者一人当たりにかけることのできる人員や医療費が低く抑えられているからなのです。