高3は医学部受験に失敗したが、浪人はしなかったワケ
改めて医学部進学への意欲を高めた沙羅選手だったが、この後の動きもまた、輝哉流が貫かれることになる。東京五輪代表を決める時期でもあり、朝比奈家は“浪人”という選択をしなかったのだ。
「通常、現役、浪人生の医学部進学のチャンスは、大学入学共通テスト(旧センター試験)を受けて各大学の2次試験を受ける国立大学受験か、一般入試の1次試験と2次試験を受ける私立大学受験の2パターンのみです。学校推薦を得る方法や海外進学の道もありますが、それ以外に、私はもっと入試のチャンスを増やす“オプション”を探っていました。まず、現役受験のときに他学部を併願し、入学しておくのです。大学生としてキャンパスライフを謳歌しながら、大学レベルの数学や物理、語学を学び、学士編入学、総合型選抜(旧AO入試)の受験資格を得る。加えて一般入試の再受験を狙う。どうでしょうか、浪人を否定しませんが、医学部合格のチャンスが確実に広がるでしょう」と輝哉氏。
実際、沙羅選手は現役のとき、医学部のほか、東海大学の工学部と体育学部を受験し、体育学部に合格している。
「浪人生活では得られない友達をつくることができ、医学部とは別の世界を広げることもできます。部活にも力を入れられる。もちろん、この選択にはデメリットもあります。医学部再受験までに長い時間がかかりますし、その間に“仮面浪人”呼ばわりされるなど、周囲からいろいろな雑音が入って、本人のモチベーションを下げてしまう危険性もあります」(輝哉氏)
「脳まで筋肉の柔道選手に医学部合格はできない」誹謗中傷にも耐えた
事実、朝比奈親子は、様々な“雑音”にさらされることになる。受験業界、医学界からは「受験をナメるな」「脳まで筋肉の柔道選手に医学部合格なんてできるわけがない」、また柔道界からも「オリンピックが狙えるのに、よそ見をしている」などの誹謗中傷が寄せられた。
「沙羅は絶対に柔道と勉強を両立させ、医学部合格を勝ち取ることができる強さを持っている。親が信じないで、誰が沙羅を信じるのか。私はブレることなく、固くそう信じていました。結果はどうであれ、最後の最後まで私が全力で沙羅を支えようと覚悟を決めた時期でもありますね」
こう語る輝哉氏の見込み通り、沙羅選手の大学生活は実に充実したものだった。所属した柔道部では、前述のように期待通りの活躍を見せた。生涯の友と呼べる友人もたくさんできた。
「そういう仲間たちが、私のことを本気で応援してくれました。私はもともと性格がネガティブで、自分のことをあれこれ考えこむタイプなんです。世間の風当たりにくじけそうになったこともあったけど、大学の仲間たちが『人から応援される喜び』『仲間に愛される嬉しさ』を教えてくれた。それを知って、人が変わった。明るく、強くなれた気がします」(沙羅選手)