スポーツの世界では指導者による暴力・パワハラが後を絶たない。なぜ選手たちは暴力を黙認しているのか。スポーツジャーナリストの島沢優子さんは「当事者の多くは『やり方は嫌だけどいい監督だと思う』と評価して我慢してしまう。指導者のためにも、当事者や家族が声を上げる必要がある」という――。
※本稿は、土井香苗・杉山翔一・島沢優子編、セーフスポーツ・プロジェクト監修『スポーツの世界から暴力をなくす30の方法 もう暴言もパワハラもがまんしない!』(合同出版)の一部を再編集したものです。
歯が折れても「しょうがない」
2012年12月に大阪の市立高校バスケットボール部の部員が顧問の暴力や不適切な指導を苦に自死した事件を機に、翌13年にはスポーツ界は一斉に「暴力根絶宣言」(※)を発表。スポーツにおける生徒や児童の虐待が、クローズアップされ始めました。
この事件をルポし『桜宮高バスケット部体罰事件の真実 そして少年は死ぬことに決めた』(朝日新聞出版)を上梓した私は、それ以来、スポーツハラスメントの問題を取材し続けてきました。私自身、高校のバスケット部で壮絶な暴力を受けた経験があったため、子どもたちに「自分のようなひどい経験をしてほしくない」と願ってもいました。
そのバスケット部では顧問による暴力や暴言が日常茶飯事でした。一度に50回以上も拳で殴られたこともありました。床に血が飛び散り、前歯を折って差し歯になりました。歯医者に行って寮に帰ると、顧問から「出っ歯だったからちょうどよかったな」と言われました。無論、謝罪などはありません。精神的ストレスからか生理は2年半きませんでした。ひたすら我慢しました。「こんなものだ、しょうがない」と思っていたからです。