どうして今、「終身雇用+実力主義」を目指すのか
無印良品は終身雇用を目指しています。そう聞くと、「旧態依然とした組織なのかな」と誤解する人もいるかもしれません。正確に言うならば、「実力を的確に評価する制度を整えつつ、終身雇用で社員に安定した生活を保障する環境をつくろう」としています。
バブル崩壊後、終身雇用のイメージは悪くなりましたが、それは年功序列とセットになっていたからです。実力がなくても勤務年数さえ長ければ出世できるという、正しい競争の起きないシステムに問題があったのです。
私は、社員が定年まで安心して働ける環境は大切だと考えています。それがないと、仕事への愛着や愛社精神は育たないでしょう。同時に、給料も少しずつでも上がる仕組みでないと、やはり社員は働きがいを感じません。
いわゆる“ブラック企業”ばかりが注目されているなか、東洋経済が毎年行っている「新卒社員が辞めない会社」ランキングTOP300では、新卒社員の3年後定着率100%の企業は71社もあります(2021年)。分析・計測機器大手の島津製作所は、3年前に入社した98人の新卒社員が一人も辞めていないそうです。他にも、機械や電気機器、精密機器などのものづくりの企業は、意外と離職率は低い傾向があります。
つまり、多くの若者は3年で辞めたいと考えているわけではないのだといえます。一生働ける職場に巡り合えれば幸せでしょう。しかし、年功序列は排除しなければなりません。
欧米型の成果主義は日本に合わなかった
世界に目を転じてみると、ホワイトカラーの社員の終身雇用を採用する企業はほとんどありません。海外は職務給が一般的です。職務給は「仕事の内容」に対して給料が支払われます。したがって、経験年数や年齢などは一切関係なし。給料を上げるために夜は学校に通って資格を取るなど、みな貪欲に勉強し、働きます。海外でホワイトカラーの生産性が高いのはそのためでしょう。
対して日本は職能給です。職能給は「仕事の能力」に応じて給料が支払われるという仕組みですが、日本では働く年数が長ければ能力が高いと思われているので、年功序列というルールが生まれたのです。
日本のホワイトカラーの生産性が低いと言われるのは、能力がなくても自動的に昇給するシステムになっていたからです。それもバブル崩壊と共に限界が来て、欧米型の職務給をベースにした成果主義が日本企業にも流れ込みました。
そのようにして日本に入ってきた“欧米型の成果主義”は、残念ながら多くの企業にとっては劇薬になりました。多くの若者は「これで、実力で評価してもらえる」と喜びました。一方で、自動的に昇進できなくなると焦ったベテラン社員も多くいました。そこで何が起きたのか。上司は自分の評価を上げるために部下に仕事を教えなくなり、気に入らない部下の評価を低くしました。失敗を恐れて当たり障りのない仕事ばかりをする人が続出するなど、多くの企業で内部がガタガタになってしまいました。