本部の社員は全員が店長経験者

商品の洋服を畳んだり、品出しをしたり、店内の掃除や在庫の管理など、無印良品には「何となく」する作業はありません。すべての作業には目的や意味があります。作業を教える前に、まず作業の目的を教えるのがMUJIGRAMの特徴です。

「目的」を教えることは、無印良品の理念や哲学を、現場の作業を通して教えることでもあります。一つひとつの作業を通して無印良品の考え方を教えるうちに、理念や哲学が体に染みこんでいく。そうやって無印生まれ・無印育ちの社員は育ちます。

「そうはいっても、店舗の経験者が本部に配属になっても、仕事が全然違うではないか」

そういう疑問を持つ方もいるでしょう。

無印良品では基本的に、店舗で店長を経験した人間でないと、本部の社員にはなれません。そして店長は単なるお飾りではなく、一人の経営者としてのスキルや自覚を持ってもらうよう、MUJIGRAMなどを使って教育しています。

商品に関する知識を持っておくのはもちろんのこと、店舗のスタッフとのコミュニケーション、経理などのお金の管理、在庫の管理、店の宣伝など、店に関するあらゆる業務をできなければなりません。さらに、トラブルが起きた時には先頭に立って解決し、売り上げ目標を立てるのも“経営者”である店長の仕事です。そんな経営者感覚を店舗で身につけてから、本部に配属となります。

ビジネスミーティングを行っているチーム
写真=iStock.com/metamorworks
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たとえば本部での商品開発は、店舗とは一見関係はなさそうですが、そんなことはありません。日々、店頭でお客様と接していた“元店長”のほうが、お客様のニーズがよくわかるでしょう。人事に携わるとしても、お店でアルバイトやパートの採用をして育ててきた経験があるのですから、人を見る目も、人を育てる力量も備わっています。

つまり、店舗で働く体験を通して、無印良品本部の社員として必要なあらゆる能力を、一定レベル身につけているのです。中途採用したての人では、そこまで簡単に無印が求めているものを理解することはできません。

中途で採用した人の多くは数年後に辞めてしまう

そもそも、人の問題を、数で解決するという方法は、会社を弱くします。

たとえば、売り上げが10%アップして、仕事が増えたから、社員も10%増やそう――こういう考え方をする会社は多いようですが、これはリスクの高い発想です。

この発想で増員し続けると、業績が好調なときはいいのですが、悪化したときは一気に人件費が負債となってのしかかります。不動産などに限らず、人材の過剰投資・拡大路線も慎重にすべきです。

私の経験則で言うと、中途で採用した人は、多くが数年後に辞めてしまう傾向があります。以前、経理の担当者を数名中途採用したとき、しばらくは順調だったのですが、人材派遣の会社に引き抜かれてしまいました。ほかの社員も同じ時期に辞めていき、決算の直前だったので社内は大混乱になりました。

その時痛感したのは、「お金だけで人材を引っ張ってきたら、お金で引き抜かれる」ということでした。組織の風土をよく理解している人たちで会社を回している限り、軸はぶれません。そのためにも、時間はかかっても無印生まれ・無印育ちの社員を育てるのが最善策なのです。