ビジネスではどこまで「お客様の声」を取り入れればよいのか。良品計画前会長の松井忠三さんは「お客様の声は宝の山だ。ただし、それを聞きすぎて、ブランドのコンセプトを揺るがせてはいけない」という――。

※本稿は、松井忠三『無印良品の教え』(角川新書)の一部を再編集したものです。

2019年5月9日、ニューヨークの無印良品のフラッグシップショップ
写真=iStock.com/LewisTsePuiLung
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無印の「売れ筋」が多めに仕入れてある理由

大企業病に陥ると、現場とリーダーの意識が乖離かいりしていきます。

それを埋めるには、まずリーダーが現場に出向いてスタッフの声を聞くしかありません。

私は社長に就任してすぐに、全国の店舗を行脚あんぎゃして回りました。当時常務の金井政明をつれ、直営店107店を一軒ずつ回っていきました。

ただ視察するだけでは、表面的なことしかわかりません。夜は店長らスタッフと共に飲みに行き、そこで腹を割って話す場を設けました。

最初は警戒して他人行儀な話しかしなかった店長らも、こちらが話を聞く態勢でいるとわかると、徐々に本音を話しだします。

そうして、本社にいるだけでは決してわからない現場の問題点が色々と見えてきました。過剰在庫の問題も、店を訪れて気づいた点です。

救いだったのは、本社は意気消沈していたけれども、店は元気だったこと。無印良品は店長もスタッフも、もともと無印ファンだった人が多いので、店を愛する思いが強かったのでしょう。スタッフは元気に声を出して接客していましたし、店ごとにあれこれ工夫して売ろうとしていました。

そして現場のスタッフたちの「自分たちが頑張らないと!」という思いから、さまざまな知恵が生まれました。

過剰在庫の問題に気づいてから、前年のデータをもとに、売り場の在庫管理と自動発注を連動させる仕組みをつくりました。今はどこの会社でもITで管理していますが、当時はまだ電話やFAXでのやり取りが主流で、パソコンで管理できるようにするだけでも画期的な取り組みでした。

ただし、コンピュータだけに頼っていると、キャンペーンや特売をしたときや、気温の変化が激しかったときなどに対応しきれず、売り場に穴が空くという事態も起こります。すると売り場から、売れ筋の商品を多めに仕入れたほうがいいのではないかという意見が寄せられました。

この意見を精査したうえで、「売れ筋ベスト10の商品を常に店で把握し、その商品は目立つ場所に陳列する」という仕組みにしました。これを「売れ筋捜査」と呼んでいますが、この仕組みのおかげで、在庫管理がさらに円滑にできています。