無印ブランドを守るためにやってはいけないこと

どこの企業でも、どんなチームでも、業績が低迷すると、商品やサービスを見直します。今までにない商品を開発して心機一転を図ったり、流行を取り入れてみたりと、思いつく限りのことを試してみるでしょう。

それでヒット作が出るならいいのですが、たいていは不発で終わります。貧すれば鈍するの典型で、目先の利益に飛びついてしまうからです。

無印良品も、業績が悪化したころは混迷を極めました。

たとえば、赤やオレンジなど華やかな色合いの衣料品を販売していた時期があります。

もともと商品づくりでは、自然界にある色と天然素材でつくることをコンセプトとしてきました。そうすると、衣料品も自ずと色合いは白やベージュ、黒、藍、グレーなどのベーシックな色が中心になります。

時折、お客様から「モノトーンだけでは飽きるから、もっとカラフルな服があったらいいのに」という要望が寄せられることがありました。そして、商品を開発している人が、「そこが、業績回復の突破口になるのではないか」と飛びついたのです。

社員も必死になっているので、新しいタイプの服が出来上がると、懸命にPRして売り出します。すると、いつもの無印良品とは違う新鮮さがあるからか、確かにしばらくは売れました。

しかし、それも長続きはしません。多くのお客様は他店にはないものを求めてお店に来ているのに、「他店にはない、無印らしさ」を失ってしまったら、無印良品で買う意味がなくなってしまいます。

自然界にある色と天然素材を使い、シンプルなものをつくるというブランドの根幹に当たる部分を変えてはいけなかったのです。

松井忠三『無印良品の教え』(角川新書)
松井忠三『無印良品の教え』(角川新書)

業績が悪化したときに戦略や戦術の見直しを図るのは必要ですが、ぶれてはいけない軸がぶれてしまうと、お客様は離れていきます。日本の多くのものづくりのメーカーが低迷している理由も、そこにあるのではないでしょうか。

これはたとえば、寿司が売れないからと客の要望を聞いてツマミを増やした結果、居酒屋と大差なくなり、結局ほかの居酒屋に負けるのと同じです。

流行に流されるほうが楽ですが、流行は文字通り一過性であるケースが大半です。

お客様第一で要望を聞き入れるのは大事であっても、どこまでも聞いていてはブランドのコンセプトが揺らいでしまいます。足元を固めるために、自社が目指してきたコンセプトをしっかりと再確認したうえで、それを進化させる形で経営戦略を立てるべきなのです。

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