スタッフの売りたい商品は「2割引き」で売る

また、「一品入魂」という制度も、現場から生まれたアイデアです。

これは「店のスタッフ一人ひとりが売りたい商品を一つ決めて、お試し価格として二割ほど安くして売る」という手法です。なぜその商品がお薦めなのか、スタッフが自分でコメントを書いてアピールするので、自然と力が入ります。

このような自発性があったため、厳しい業績の間でも、現場サイドは非常に前向きでした。だから無印良品は立ち直りが早かったのだと思います。

業績が低迷している現場で、いくらリーダーが売り上げアップを説いたところで社員は動かないでしょう。まずは現場との溝を埋めて、不満に耳を傾け、一緒に解決策を考える――今の時代のリーダーに必要なのはカリスマ性ではなく、現場でも自由にものを言えるような風土をつくり、その意見を仕組みにしていくことです。

そうして現場の自発性が育てば、自ずと実行力のある組織になっていきます。

「お客様の声からヒット作をつくる」具体策

よく「クレームは宝」といわれていますが、お客様の声を活用する具体的なシステムを整えている会社は少ないのではないでしょうか。

「お客様の声を集める」仕組みは大事です。無印良品にも、電話やメールなどで、お客様からの要望が毎日のように寄せられます。

「商品がほつれている」「前に買ったものよりゴムが緩い」といったご指摘もありますし、「キャスター部分の交換はできるのか」という問い合わせもあります。こうしたご意見は、「声ナビ」というソフトに入力し、毎週一回、関係者でチェックし、商品に反映するかどうかを決めています。

白い壁と植物だけの空間
写真=iStock.com/AntonioSolano
※写真はイメージです

同時に、「くらしの良品研究所」というサイトを立ち上げ、お客様とコミュニケーションをとりながら商品開発をしていく仕組みを整えました。

くらしの良品研究所には、「蒸れない帽子をつくれませんか」「このサイズの机をつくってほしい」など、さまざまなリクエストがあります。それも週一回、関係者で吟味ぎんみし、商品化するかどうかを決めます。

お客様の声から生まれた商品の代表格は、なんと言っても「体にフィットするソファ」でしょう。

四角いボックス型のソファの中身に微粒子ビーズを使用し、伸縮性の異なるカバーをかぶせることで、よりかかっても上に寝転んでも身体になじむ仕様になっています。

これは、「部屋が狭くてソファが置けないならば、大きなクッションにソファの機能を付けたらどうだろう」というお客様のリクエストから生まれました。

あまりに快適すぎて立ち上がれなくなるなどとSNS上でも話題となり、累計で200万個以上も売れている大ヒット商品です。

くらしの良品研究所では、自分の声がどう商品に反映されているのかがわかるので、お客様も積極的に参加してくれるのでしょう。こうした仕組みも無印良品の商品力を強化することに役立っています。

クレームもリクエストも、実際に役立ててこそ、本当の宝になります。そう考えると、どの企業にも、アイデアの宝が山ほど眠っているのではないでしょうか。