和歌山では「二階王国」が揺らぎ始めた

自治体のIR誘致計画申請の受付が始まった10月1日。横浜市では、林文子前市長が2年前に設置した都市整備局内の「IR推進室」が廃止された。

「ほぼ当確」(自民党関係者)とさえ言われていた有力候補の横浜市が撤退したことで、以前から手を挙げていた3地域の誘致政策にも少なからず影響をおよぼし始めた。10月31日の衆院選を機に市民運動にも新たな動きが出てきた。申請受付期限の2022年4月28日まで無風とはいかなそうだ。

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菅前首相と同様にIRを強力に推進してきた二階俊博前自民党幹事長の地盤、和歌山3区は衆院選で最多の4人が立候補した。元総務省職員の本間奈々氏など二階氏を除く3人がIR誘致に反対だった。なかでも本間氏は二階氏を中国寄りだと厳しく批判し、二階氏が進めてきたカジノ建設で治安が悪化すると力説。反二階派や市民団体などの票を集めた。

選挙ではほとんど地元回りをしなかった二階氏だが、今回は幹事長退任による影響力低下の危機感からか山間の過疎地区まで入り「政治の原点はふるさとだ」などと熱心に街宣して回った。ふたを開けてみれば二階氏の圧勝だったが、二階王国が揺れ始めた。

衆院選前の10月8日に開かれた県のIR対策特別委員会では、県からIR運営会社クレアベストニームベンチャーズ(カナダ)の日本法人を中心とする共同事業体を優先事業者に選び、「区域整備計画」の原案作りに入るとの説明があった後、自民党県議から事業の不安定さや不透明さを問題視する質問が相次いだ。

山下直也議員は「非公開だからといって姿が見えないのでは信用できない」と指摘。事業者との契約関係があいまいなことの説明を求めた。党県議団の重鎮、冨安民浩議員は「資金調達や収益など、大事業をやるのにこれでは心もとない。県が何が何でも進めようとしているのは問題ではないか」と疑問を呈した。

県の楠見直博IR推進室長は「まだ未確定な部分は残っているが11月には『区域整備計画』の原案を作り上げる」と苦しい説明に終始。推進派であるはずの自民党議員からの追及に当惑気味だった。

市民団体は住民投票を求める署名活動を開始

横浜市長選の影響を問われた仁坂吉伸知事は報道陣に「やっぱりIRは良くないんだという人が増えそうだ」と心配していたが、それが現実になった格好だ。

県にはカジノに反対する3つの市民団体があるが11月6日、これらのグループが中心となりIR誘致の是非を問うための住民投票を求める署名活動を開始した。「ストップ! カジノ和歌山の会」の豊田泰史共同代表は「新型コロナでIR事業者はどこも経営不振になり、大きな会議場もいらなくなった。強い業者は撤退したし選定された業者の経営状況も良くない。建設してもさらに環境が悪化すれば廃墟になりかねない」と危惧する。

豊田氏は横浜市と同じ方法で市民の問題意識を高めたいと考えている。「住民投票の請求は6200人の署名で可能だが、2万人以上を集めて12月に市長に提出したい」という。署名が所定数に達すれば市長は住民投票条例案を市議会に諮らなければならない。自民県議は選定事業者の経営状況を不安視しているうえ、維新の会は県議、市議ともIR誘致に反対しており、大阪とは温度差がある。二階氏の神通力が弱まり始めた和歌山でIR誘致の是非が改めてクローズアップされそうだ。