女性スパイが男性に対して色仕掛けで迫る「ハニートラップ」。スパイ映画では定番のシーンだが、現実に存在するのだろうか。『警視庁公安部外事課』(光文社)を書いた勝丸円覚さんは「実際に中国やロシアの諜報機関は、キャリア官僚や大企業の幹部にハニートラップを仕掛けている」という――。

※本稿は、勝丸円覚『警視庁公安部外事課』(光文社)の一部を再編集したものです。

女性スパイを訓練所において全裸で生活させる

スパイ映画では、よくハニートラップの話が出てくる。

ハニートラップとは、主に女性スパイが男性に対して色仕掛けで行う諜報活動のことをいう。

結論から述べると、日本の公安がハニートラップを仕掛けることはない。その理由は単純明快で、費用対効果が悪すぎるからだ。

しかし、海外の諜報機関などでは、今なお横行しているのが現状だ。

アメリカや韓国なども使うことがあるが、特にこの手口を多用するのは中国、そしてロシアだろう。ロシアがソ連だった頃は、女性スパイを訓練所において全裸で生活させたり、同僚男性と肉体関係を持たせたりすることで、性的な羞恥心を取り去ったという。

東西冷戦時代には、主にヨーロッパでソ連の美人スパイが暗躍した。

近年では、「美しすぎるスパイ」と言われたアンナ・チャップマンが有名だ。

チャップマンはロシア対外情報庁(SVR)の命を受け、表向きはアメリカ、マンハッタンの不動産会社のCEOを務めながら、アメリカの核弾頭開発計画などの情報を色仕掛けで収集していた。

アクティブに銃を構えるドレスの美女
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「後から協力者に仕立て上げる」という手口が多い

日本の公安がハニートラップを仕掛けることはない一方で、仕掛けられることはある。

中国やロシアなどの国々からで、公安捜査員だけでなく、キャリア官僚や大企業の幹部なども標的にされる。

ところで、ハニートラップというと「訓練されたプロフェッショナルな女性」というイメージがあるかもしれないが、それは間違い。

かつてはそういうこともあったが、現在は、わざわざ専門のハニートラップ要員を育てるようなことはまずしない。

では、どうしているのかというと、「後づけ」。

対象者が好意を寄せている、あるいは気になっている女性を把握し、彼女に金銭を渡すなどして「後から協力者に仕立て上げる」という手法だ。

少々荒っぽい気もするが、これが結構な成果を挙げている。

しかもゼロからプロの要員を育てるよりもはるかに楽、かつ安上がりなので、理にかなった方法といえるだろう。

たとえば中国の場合、ターゲットがたまたま気に入った女性を、後から金銭を渡すなどして協力者に仕立てる手口が多いようだ。