近年、国内の犯罪や交通事故は減少傾向にある。しかし日本の警察官の仕事は一向に減っていない。なぜなのか。ノンフィクション作家の野地秩嘉さんが解説する――。

※本稿は、野地秩嘉『警察庁長官 知られざる警察トップの仕事と素顔』(朝日新書)の一部を再編集したものです。

渋谷センター街
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犯罪も交通事故も減っているのに仕事は増えている

犯罪白書(令和元年版)を見ると、犯罪、交通事故も、ともに減っていることがわかる。刑法犯の認知件数は2002年の285万3739件をピークに減少し、2018年で81万7338件。検挙率は平成期の前半では低下傾向だが、後半では上昇傾向にある。犯罪の件数が減ったから、検挙にあたる警察のマンパワーが相対的に増えたのだろう。

減っているのは窃盗だ。ここのところ戦後最少を更新し続けている。気になるのは特殊詐欺である。認知件数は2011年から増加している。ただ、2018年だけは前年比9.4%減っている。

特殊詐欺とあおり運転はニュースに取り上げられる頻度が高い。このふたつが話題になっている限り体感治安はなかなかよくはならないだろう。

交通事故も近年は減っている。ピークは2004年の95万2720件で、2018年は43万601件。コロナ禍で緊急事態宣言が発出された2020年は30万9178件だ。前年比で19.0%も減少している。なんとピーク時の3分の1以下になった。

では、なぜ、犯罪は減ったのか。

少年犯罪から暴力団対策までを網羅した5箇条

減っているのは2002年以降だ。当時、増えつつある犯罪件数を見て、警察組織は震撼し、警察庁長官、佐藤英彦が犯罪を減らすことに大号令をかけた。

そして、さまざまな施策を打ち出した。2003(平成15)年の犯罪対策閣僚会議では次のような施策を発表している。むろん、起案したのは警察庁のキャリア官僚だ。

「犯罪に強い社会の実現のための行動計画 世界一安全な国、日本の復活を目指して」
1 平穏な暮らしを脅かす身近な犯罪の抑止
地域連帯の再生と安全で安心なまちづくりの実現、犯罪被害者の保護等
2 社会全体で取り組む少年犯罪の抑止
少年犯罪への厳正・的確な対応、少年を非行から守るための関係機関の連携強化等
3 国境を越える脅威への対応
水際における監視、取締りの推進、不法入国・不法滞在対策等の推進等
4 組織犯罪等からの経済、社会の防護
組織犯罪対策、暴力団対策の推進、薬物乱用、銃器犯罪のない社会の実現等
5 治安回復のための基盤整備
刑務所等矯正施設の過剰収容の解消と矯正処遇の強化、更生保護制度の充実強化等