捜査手法が多様化し、市民サービス的な仕事も増えた
いくらAIが画面を分析するようになっても、結局のところ、容疑者の家を訪ねたりするのはロボットではない。対人捜査は警察官が行わなければならないから、現場の仕事は減らない。
警察が直面している大きな課題は捜査手法が多様化したために業務の種類が増えたことだろう。加えて、犯罪捜査以外の市民サービス的な仕事も増えている。
業務の量が増えていることに対して、警察庁長官と幹部はどう判断するのだろうか。
警察庁長官が、今やらなくてはいけないのは警察の本質を新たに決め、それに沿った未来の姿を考え、庁内に示すことではないか。
ただし、任期が2年から3年というなかで、ひとりの長官が警察の将来を決定することは簡単ではない。
民間会社の敏腕社長であれば5年から6年の在職中に長期的な計画を立てることができるし、新分野にも足場を築くことができる。一方、警察庁長官の任期を延ばすのは難しいだろうから、2年から3年の間に通常業務とは別に警察の仕事を革新的にしたり、新分野を追加することは極めて困難だ。
市民としては、警察の守備範囲が広がるのは困ることではない。一方で、何から何まで担当してもらわなくともいいとも思っている。
戦前に実在した特高のような思想警察、衛生警察(警視庁及び府県警察部衛生課感染症対策から飲食店の食事、医療の一部まで担当)が出現するのは困る。
「警察の仕事はここからあそこまでですよ」とはっきりさせてほしいのである。
「個人の生命、身体及び財産」の解釈が広がっている
警察官なら誰もが知っていて、暗記している法律がある。警察法の第二条第一項がそれだ。
「警察は、個人の生命、身体及び財産の保護に任じ、犯罪の予防、鎮圧及び捜査、被疑者の逮捕、交通の取締その他公共の安全と秩序の維持に当ることをもつてその責務とする。」
日本の警察のあり方、守備範囲を決めている法律である。第二条にはふたつの責務が書いてあり、どちらにも軽重はない。ともに大事なものとなっている。
A 「個人の生命、身体及び財産の保護」
B 犯罪の予防、鎮圧および捜査などから始まる「公共の安全と秩序の維持」
世界の警察の場合も両方が責務だが、重点はBの犯罪捜査と公共の安全と秩序の維持だろう。
一方、日本の警察はAの個人の生命、身体及び財産の保護も重要な仕事で、前述のように、この領域は拡大を続けている。そして、遺失物捜査、つまり落とし物を捜すことも市民財産の保護なのである。
ただ、特措法改正のため、今後、新しい感染症が蔓延するたびに何かと言えば警察官は駆り出されるだろう。