ちなみに、これまで出版された作品集の販売部数を見ると、相田みつをに魅せられたひとの輪の広がりが、並々でないことがうかがえる。
『にんげんだもの』(文化出版局刊)
88万部
『一生感動一生青春』(同)
40万部
『雨の日には…』(同)
18万部
『おかげさん』(ダイヤモンド社刊)
18万部
『いのちいっぱい』(同)
8万部
このような読者の輪のひろがりについて、文化出版局書籍編集部の中野完二部長は「愛読者カードを読むと、救われた、ホッとしたという感想が多いですね。仕事や人生に思い疲れたひとたちが、作品にふれてなぐさめられるのでしょう。決してお説教じみてなく、ご自分のことばで書いておられますからね。それに、たんになぐさめられたというだけでなく、ほのぼのとした希望をよむひとに与えるのですよ」という。
相田自身「自分の内側にほんとうに安らぐものを持たないと、一生右往左往して終ってしまう。自分のこころをどこにおちつけるかがたいせつですね」といっている。
肩ひじ張らず
すんなり さらさら
ゆきましょう
水のように
それがなかなか
できない わたし
「なにごとも自分を問いつめなくては、たんなる世間話に終ってしまうのです」ともいっている。
相田には、サラリーマンの経験はない。息子の一人(かずひと)が、子どものころ、友だちから父親の仕事をたずねられて困ったというほどであった。
「書家ではくくれず、詩人でもおさまりきれない」のである。ただ「筆をもつ以外になんの能もない人間…」と、相田は『自作の歌、自作の詩』という個展の案内状で、自己紹介をしている。しかし、「筆をもつ」ことは彼にとっては自分を探求することとおなじなのである。
『いのちいっぱい』のなかの「じぶん、このやっかいなもの」の文字は、かすれた文字ではあるが、それがかえって迫力になりつよく読者に迫ってくる。