独特の書体と、言葉を飾ろうとはせず、素直に自分に向かって語りかけるような書に、どれだけ多くの人たちが慰められ、励まされ、力づけられたことだろうか。仕事や人生に疲れたとき、読む人に、希望を与える相田の作品。その魅力は、かぎりなく人間にこだわり、自分にこだわったところにある。

個性的な書体と飾らない詩

「朝から晩まで仕事に追われ、週に何回も飛行機で上京する。さらに、しばしば外国へ行き、そこからも電話で仕事の連絡をしている」ほど、超多忙なひとりの経営者を評して、88歳の老母が「まるで宇宙人のようだ」といった。

その彼が、親しい友人から一冊の本を贈られた。書名は『にんげんだもの』、著者は相田みつを。はじめて知った名前だった。

彼、大西正文(当時大阪ガス社長、現会長)は、その作品集をひらき、まず筆跡に惹きつけられた。次に

   つまづいたって
   いいじゃないか
   にんげんだもの

この詩には、いいようのないあたたかさを感じた。そのときの印象を、大西は、「一瞬肩の力が抜け、なんとなくほっとした気持になった。そして著者の優しい個性的な筆痕にしばし見とれた。久しぶりに、仕事から離れた世界に心が旅している境地になり、この本を贈ってくれた友人の友情をありがたく思った」(1986年12月17日付、日本経済新聞)と語っている。

実は私もまた、親しい経営者から『にんげんだもの』を贈られて感動したひとりである。