ペットとキスをしてはいけない

可愛い犬や猫は、大事な家族の一員。そう思って暮らしている方は多いと思います。

愛犬にペロペロと顔中をなめられて、「もう、くすぐったいんだから」と飼い主が楽しそうにしている姿は微笑ましく、よく目にする光景です。しかしこれは、私たち歯科医からすれば、もう笑っている場合ではない、「ちょっと待った!」と割って入りたくなるような状況なのです。

歯周病が感染症であること、キスでも移ることは、すでにお話ししてきた通りです。そして、もうひとつ、みなさんに知っていただきたいのは、これは、人間同士に限ったことではない、ということです。もうおわかりですね。

写真=iStock.com/Tomwang112
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もし、飼い主さんの顔をペロペロとなめているワンちゃんの歯周病菌が、その飼い主さんに移っている可能性が高いとしたら、逆に飼い主さんの歯周病菌がワンちゃんに移ってしまっているとしたら、さきほどと同じように微笑ましい光景に見えるでしょうか。

大阪大学歯学部小児歯科の隣の研究室が調査をした結果、ペットのなかでも、犬と猫には人間の歯周病菌と同じくらい、病原性が強い歯周病菌がいることが明らかになっています。つまり、犬や猫にも歯周病があるということです。

そして、それは同じように唾液感染で移ります。人間同士、動物同士だけでなく、人から動物へ、動物から人へ移る感染もあるということです。ただし、犬の歯周病菌は、人間の歯周病菌とは種類が違います。ですから、相互感染していたとしても、どちらから移った菌なのか、感染ルートがわかるのです。

飼い主とペットが歯周病菌をシェアしている場合も

前述の研究室では、大阪大学の周辺で犬を飼っている家庭の協力を得て、飼い主と犬の歯周病菌の調査を行いました。検査をしたのは、飼い犬・全66匹。そのうち7割の犬から歯周病菌が検出されました。続いて、この66匹の飼い主の口のなかの細菌検査を行いました。

すると、そのうち16%の飼い主から、犬と同じ歯周病菌が検出されたのです。つまり、愛犬から毎日のように顔をペロペロとなめられていることで、愛犬の歯周病菌が飼い主に移されたということです。

しかも、それだけではありません。この飼い主の6割の人たちは、もともと歯周病があり、ジンジバリス菌という最も悪性度の高い歯周病菌をもっていました。このジンジバリス菌が、14%の飼い犬から検出されたのです。

この66匹のなかには飼い主の顔を毎日なめていることで、飼い主から歯周病菌を移されてしまった犬もいたのかもしれません。これで、ペットと飼い主(イヌとヒト)は、歯周病菌をお互いに融通し合っているという悲しい現実が証明されたことになります。

年を取ると、歯周病がふえていくのは、人間も犬も同じです。成犬となり、4歳を過ぎるころから歯周病が見つかりはじめる。やがて7歳の老犬になると、口のなかにはほぼ100%歯周病菌が存在するといわれています。

ですから、いくらペットが家族同然だとしても、愛犬、愛猫には自分の唇を絶対に許してはいけません。それが愛するペットのため、飼い主であるあなたのためでもあるのです。