内部通報をバラされ、休職に追い込まれる局長も

似たことはほかにも起きている。

同じ福岡県では2019年初め、九州支社の副主幹統括局長が配下の局長を呼び出して「絶対に潰す」「辞めるまでいくよ、俺は」などと脅す陰湿な事件が起きていた。副主幹統括局長とは、統括局長のなかでも支社管内でナンバー2の座を指す。

この統括局長は、別の郵便局の局長を務める息子の問題が本社に内部通報され、配下の局長に通報者だと認めさせようとしたうえに、他の通報者もあぶり出そうとした。企業コンプライアンスの要となる通報制度を否定する行為に対し、日本郵便は当時、統括局長を懲戒戒告処分とし、統括局長のポストも解任することで決着させていた。

だが、この問題を深掘りしてみると、統括局長は驚くことに、本社のコンプライアンス担当役員から通報情報の一端をじかに教わり、通報者が地区内の局長数人だと目星をつけていた。その担当役員は、通報者らが「絶対に伝えないで」と念押しした全国郵便局長会の元会長の日本郵便専務(当時)にまで、なんの断りもなく通報者の情報を明かしていた。

地区内の局長を招集し、「通報者なら名乗り出て」と求める局長はほかにもいた。通報者と疑われた局長の一部は、問題の統括局長が会長を兼ねていた地区郵便局長会から除名され、会社での役職も外された。厳しい叱責を受け、休職に追い込まれる局長が相次ぐなど、さまざまな不利益を被った。

増田体制が社内改革を断行

日本郵便はそうした実態を朝日新聞で指摘されたあとも「通報制度の運用に特段の問題はなく、社員の通報には適切に対処している」と唱えていた。これに業を煮やしたのが増田氏だった。

日本郵便の取締役も兼ねる増田氏は、日本郵政の外部有識者委員会にグループの通報制度の検証を求め、通報情報の共有範囲を明確にするなど社内規則を整備。会社側に情報を丸投げしていた社外通報窓口の体制も改め、本社と情報共有せずに不正などを調査できるしくみに変えた。

元副主幹統括局長への当初の処分も見直した。日本郵便内の抵抗も押し切り、今春には計9人に停職などの処分を下し、数人は局長ポストからも外した。通報情報を漏らした本社のコンプライアンス担当役員、通報者らへのパワハラに対応しなかった支社幹部らも一定の処分を受けるに至った。

さらに長崎市の10億円超の詐欺事件、愛媛県の2億円超の横領事件では、その地区の統括局長が監督責任を問われて懲戒戒告処分を受け、統括局長を解任する人事も断行された。

これは民営化して14年が経過した日本郵政グループにとって、前例のない事態である。