全国の約1万9000人の郵便局長が所属する「全国郵便局長会」は、局長の後任は自ら選ぶ「選考任用」、同じ局で働き続ける「不転勤」、局長自らが局舎を持つ「自営局舎」という3つを今も重要施策に掲げ続けている。民営化したはずの日本郵便で、なぜこんなことがまかり通るのか。朝日新聞の藤田知也記者が報告する――。
郵便ポスト
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「ウソをつく感覚がいつの間にかマヒしていた」

「ウソの報告書を作ることに最初は抵抗したし、罪悪感もありました。でも、みんな同じようにやっているんですよ。局長会に怒られないことが最優先。社内ルールをかいくぐるのに必死で、ウソをついている感覚がマヒしていました」

そう打ち明けるのは、日本郵便の支社で局舎担当の仕事に携わる社員の一人だ。ウソの報告内容が取締役会にも上がることは、「言われてみれば、確かにそうですね」という程度の意識だった――。

古くなった郵便局を移転させる際、その移転先の土地を先回りして買ったり借りたりする郵便局長たちが大勢いる。彼らは郵便局舎を建て、勤め先である日本郵便から長期安定の家賃収入を得る。筆者の調査では、2020年までの3年間に新築された戸建て局舎(建築面積200平米以下)の約半数は、局長の名義となっていた。

企業が役職員から拠点となる不動産を借りれば、企業側は少しでも安い賃料で、大家となる役職員は高い賃料で貸し借りしたい「利益相反」関係となるため、上場企業では極力避けるべき取引とされる。国の資金が乏しかった明治初期に地方の名士らの協力で郵便局網を築いた歴史があるとしても、現代社会で新たに造る局舎は話が別だ。

「やむを得ない場合」であるはずの例外が横行

日本郵便の社内ルールでも、局舎の不動産は日本郵便が第三者から調達するのが大原則となっている。例外的に身内からの借り入れを認めるのは「真にやむを得ない場合」で、該当するかどうかは取締役会で一件ずつ決議し、他にいい物件がないことを「公募」で確認もする。

そんなルールがあるにもかかわらず、なぜ「例外」が数多く生じるのか。