「何をされるかわからない」幅を利かせる郵便局長会

拙著『郵政腐敗 日本型組織の失敗学』(光文社新書)では、日本郵政グループの歴代経営陣が民営化後も郵便局長会にどれだけ気を遣い、阿ってきたかを取り上げている。

とくに2012年末の第2次安倍政権発足後は、全国郵便局長会が会長経験者を参議院議員として国会に送り込み、政権と良好な関係を築くなかで、郵政経営陣が局長会の意をくむ傾向も強まっていった。

2019年夏には、全国郵便局長会の元会長が日本郵便副社長に昇格し、全国13の支社長ポストのうち4つを元局長会幹部で占めるようにまでなった。かんぽ生命の一連の不祥事が発覚した同時期はそのピークでもあったのだ。

郵便局長会は約1万9千人いる旧特定郵便局長らでつくる任意団体で、中央組織の全国郵便局長会を頂点に、12の地方郵便局長会、238の地区郵便局長会、約1600の部会が連なるピラミッド組織だ。明治初期に地方の名士の私財提供でできた小規模郵便局がルーツで、全国2万4千の郵便局の約8割を占める。

参院選では比例代表候補を立てて組織を挙げて応援し、2019年夏には60万票の得票を獲得した。他の業界団体を圧倒する「集票力」の強さこそ、グループの要職を固める旧郵政キャリアに「目をつけられたら何をされるかわからない」と思わせる力の源泉であり、多くの社員が「局長会への配慮で不祥事を隠したり、穏便に済ませたりしているのでは」と疑う由縁にもなっている。

「選考任用」「不転勤」「自営局舎」という三本柱

増田氏自身は10月1日の会見で、こう強調していた。

「大きな不祥事もあり、社会的にもコンプライアンスの要請が高まっている。ルールに反することは厳正に対処する。その点は一層、きちんとやっていきたい」

少なくとも増田体制に変わってから、有力な局長であれ、不正があれば厳しく対応する姿勢に転じてきた。だが、これから増田体制に求められるのは、単純な犯罪や不正の処罰だけではなく、ガバナンスが効かずにコンプライアンスが軽視されがちな「構造」にメスを入れることだ。

全国郵便局長会は、民営化前から続く「選考任用」「不転勤」「自営局舎」の三本柱の実現を重要施策に位置づけている。自ら後継を探して育成し、局長は転勤させず、局舎を自ら所有する。それが地域の発展などにつながるとの理屈のもと、局長の採用や役職の配分などにも強い影響を及ぼす。

また、政治的課題の実現のためには政治力が必要だとして、会員となる局長はほぼ自動的に自民党に加入し、政治活動と選挙運動に取り組むことが半ば義務のように課せられるのが実態だ。

複数の地域で取材したところ、来夏の参院選では、局長一人に30~50票以上の得票がノルマのように求められ、その達成のために100世帯前後の「後援会(支援者)名簿」を出すよう指示される局長が多い。

会社経費で購入したカレンダーが、局長らの政治活動に流用されていた疑惑も浮上してきた。いよいよ全国郵便局長会にも説明が求められる事態だが、これまで日本郵便が「任意団体のことは承知していない」と目をそむけてきたツケが回ってきたとも言えるだろう。