住宅ローン増加は文在寅政権でいったん落ち着いたが…

韓国では家計債務(家計向けローンと販売信用)の増加が続いている。21年9月に発表された韓国銀行の「金融安定レポート」によれば、家計債務の名目GDP比率は21年3月末現在で104.7%となり、1年前から9.1%ポイント上昇した。

図表提供=向山 英彦

家計向けローンの推移(図表1)をみると、14年から16年にかけてはモーゲージローンが著しく増加した。この時期に輸出の低迷が続いていたため、当時の朴槿恵(パク・クネ)政権は内需刺激策の一環として住宅融資規制を緩和した。韓国銀行が相次いで利下げしたことと相まって、モーゲージローンが増加したのである。住宅投資の増加は景気を下支えした半面、一部の地域で価格の高騰と家計債務の増加を招いたため、16年ごろから住宅投資の抑制が図られた。

17年5月に誕生した文在寅(ムン・ジェイン)政権は格差是正の観点から、住宅価格の安定化を重要な政策課題の一つにした。住宅価格の高騰は主として投資目的の需要によって生じているとの判断から、住宅融資規制の強化や固定資産税率の引き上げなどを通じてその抑制を図った。住宅融資規制が強化された結果、モーゲージローンの増勢はしばらく鈍化していった。

ソウル首都圏の住宅は平均年収の17倍超に高騰

その一方、18年秋口から19年半ばにかけていったんは下落した住宅価格は19年半ばに上昇に転じ、その後高騰した。21年7月現在の価格は20年1月時点よりも40%以上の上昇となっている(図表2)。外換国民銀行によれば、ソウル首都圏の住宅価格は平均年収の17倍を超えており、平均的な給与所得者がこつこつと働いてマイホームをもつことは極めて難しくなった。

図表提供=向山 英彦

住宅価格の高騰は文政権の失政によるものである。市場経済原理に沿って供給を増やして価格を安定させるのではなく、投資過熱地域での住宅融資規制の強化と固定資産税の引き上げなどを通じた投資需要の抑制に力点を置いた。投資需要は規制をかいくぐるように、規制対象外になった地域にシフトした。他方、居住目的の住宅購入者は少しでも安いうちに購入しようと、購入を急いだ。コロナ禍での利下げもあり、モーゲージローンの伸びが再び強まった。

家計債務の増加に関して注目したいのは、20年から21年にかけてモーゲージローン以外のローンが急増したことである(図表1)。この要因として、コロナ禍で生活に困窮した人たちが生活費補塡ほてんのために借り入れしたほかに、株式投資を始めた若者による借り入れが増加したことである。