日本一のレタスの産地である長野県川上村は、外国人の技能実習生に依存する農業が常態化していた。農林水産省から副村長として赴任した西尾友宏さんは「ベトナムの大学と連携し、本当に農業の生産技術を学びたい農学部の学生に来てもらう形を取り入れた。その結果、ベトナムでは『川上レタス』というブランドの可能性も広がった」という——。

※本稿は、西尾友宏ほか『グローカルビジネスのすすめ』(紫洲書院)の一部を再編集したものです。

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年商4000万円のレタス村があえぐ人口減少

川上村は長野県の東の端に位置する小さな村です。長野県で唯一埼玉県の秩父の裏側に接しており、東京から直線距離だと100kmも離れていない場所にあります。標高が非常に高く、年間の平均気温も8.5℃と非常に低いため、夏場も涼しくてレタスや白菜などの高原野菜の生産が非常に盛んな地域です。

人口はわずか4000人ほどで、農家の数は500軒ほどにもかかわらず、野菜栽培で年間208億円もの年商をあげています。農家一軒あたりの平均年商が4000万円を超えているということなので、農業の分野では非常に成功している部類に入る村だと言われていました。

そもそも地方創生とは、全国の地方で人口の減少を止めるために多くの政策を考えて実行していきましょう、という施策の体系です。地方に稼げる仕事がないことから、若い人が大都市、特に東京に集中してしまいます。このローカル人材の流出を防ぐことが、地方創生の一つの大きな意義であると言えるでしょう。

その意味では、川上村は一見して特殊な状況にありました。川上村には、先にご紹介した通り、高原野菜の栽培という年商4000万円超を稼ぐことができる大きな仕事がありました。にもかかわらず、川上村の人口は着々と減少していました。

出所=人口動態保健所・市区町村別統計

図表1は現地に赴いた際に作成した人口減少の予測グラフなのですが、これによると、何もしなければあと40年ほどで人口が半分になってしまうということが分かります。地方創生という観点から見ると、川上村も例に漏れず人口が減少しており、何らかのアクションが必要な状態だったのです。

私が赴任をして最初に行ったことは、川上村の人口減少の根底にある原因を探ることでした。人口減少のトレンドを表すいくつかのデータを見てみましょう。まず世帯増減の推移に注目すると、2009年~2013年における平均転入数が88.4人であるのに対し、転出数は140人。すべての年で転出超過になっていることが分かりました。また、合計特殊出生率の推移をみると、バブルまでは2を超えていましたが、徐々に減ってしまい、現在は長野県の平均と比べても低くなっています。

その理由は人口ピラミッドが物語っています。人口ピラミッドの女性の部分、とりわけ一般的に出産適齢期とされる20代から40代の人口が少ないことがわかりました。つまり、若い世代の女性が少ない。これは地方に典型的なことなのですが、村から出た女性が都会に移り住み、村の女性が少ない故に子どもが生まれない、という分かりやすい状況です。