大企業が社員の「キャリア(転職・独立)支援」をうたうワケ

前出・大和ハウス工業の早期退職優遇制度の名前は、セカンドキャリアを支援する「キャリアデザイン制度」だ。同社のリリースでもこう説明している。

「2008年より、定年を問わず社員自身のライフスタイルにあった時期に退職し、その後の第二の人生における転進・独立を支援する『キャリアデザイン支援制度』(早期退職優遇制度)を導入していますが、2021年度は本制度を拡充して募集します」

サントリーホールディングス(HD)の新浪剛史社長=2019年3月6日、アメリカ・ニューヨーク(写真=時事通信フォト)

第二の人生における転進という転職・独立を支援するとし、応募者には通常の退職金と、特別加算金に加えて「希望者はセカンドキャリア支援策が利用できる」と明記している。

パナソニックの場合も社内に配布された内部資料によると制度の趣旨についてこう述べている。

「会社が新たな体制に向けて再スタートを切るこの機会に、これまで当社で培ってきたキャリアとスキルを活かし、社外に活躍の場を求めチャレンジする従業員に対しても、既存のライフプラン支援制度を拡充し、『特別キャリアデザインプログラム』として適用することで最大限の支援を行いたいと考えています」

特別キャリアデザインプログラムとは、通常退職金にプラスする割増退職金のほか、希望する社員は転職活動に必要な「キャリア開発休暇」の取得や人材会社による再就職支援が受けられる。

「キャリア自律」を名目に大企業の行動を正当化

こうした早期退職優遇制度のパッケージは、新浪社長が主張する45歳を節目に社員の新陳代謝を促す「45歳定年」と軌を一にするものだ。とはいっても短期間(1~2カ月)に限定して募集し、大量の社員に退職してもらうという点では実質的なリストラ策であることに変わりはない。

建前上“自ら手を挙げる応募”であっても、会社としては、辞めてほしい社員に手を挙げてもらいたい。これまでの希望退職者募集では「残ってほしい社員」を慰留し、「辞めてほしい社員」に退職勧奨を行うのが通例だ。

しかも自ら手を挙げたにもかかわらず「自己都合退職」ではなく「会社都合退職」で処理されるのがほとんどだ。

コロナ禍で吹き荒れている「早期退職優遇制度」が新浪社長の「45歳定年」の実践版であるとすれば、この時期の新浪氏の発言の意図が見えてくる。

実は個人の「キャリア自律」を名目に大企業の行動を正当化するものであり、明らかに企業のリストラに免罪符を与えるものと言ってもよいだろう。