これに対して、1人当たりの消費量がいちばん伸びている飲み物は、ミネラルウォーターと湧き水を使用したスプリングウォーター(1990年からほぼ倍増)、フルーツジュース、炭酸飲料で、いずれもアルコールを含まない。

こうして、ワインは毎日飲むものではなく、たまに楽しむものになった結果、フランスは昔から維持してきたワイン消費大国の首位の座をスロベニアとクロアチアに明け渡した(両国とも1人当たり年45リットル近くを消費する)。

たしかに往年のワイン消費大国のなかで、消費の絶対量も消費量の相対的な順位もフランスほど下落した例はないが、イタリアもそのすぐ後ろに続いているし、スペインとギリシャでもワイン消費量の減少が続いている。

ワイングラスで乾杯する習慣は絶滅の危機

バーツラフ・シュミル著、栗木さつき・熊谷千寿訳『Numbers Don’t Lie 世界のリアルは「数字」でつかめ!』(NHK出版)

それでも、フランスには1つだけ、いい傾向が見られる。ワイン輸出があいかわらず好調で、2018年には輸出額の新記録(約110億ドル)を打ち立てたのだ。フランス産のワインには他国産のワインより高い価格がつけられていて、その証拠に、世界のワインおよび蒸留酒の取引量においてフランス産ワインが占める割合は15%であるのに対して、総取引額では30%を占めている。

この20年で1人当たりのワイン年間平均消費量が50%以上伸びたアメリカがフランス産ワインをいちばん多く輸入しているのに加えて、新興の中国市場の需要も増え、総取引額に占める割合が高まっている。

フランスは、これまで世界に数えきれないほどのヴァンオルディネール(テーブルワイン)だけではなく、最高級のグランクリュクラッセも提供してきた。ところがいまフランスでは、脚のついたグラスをあわせて乾杯し、健康(サンテ)を祈る習慣が絶滅の危機に瀕しているのだ。

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