正しい情報よりフェイクニュースのほうが100倍広まる理由

他方でポジティブな情報には、ネガティブな情報ほど重みをつける理由がありません。

たとえば「獲物が豊富な猟場があるが、そこでは過去にひとりだけ死者が出ている」ような状況では、その場での狩りを避けるのが無難でしょう。

獲物が取れなくてもしばらくは生きていけますが、もし命を落としたら取り返しがつきません。一度の失敗が生死を分ける環境では、危険を知らせる情報の価値のほうが格段に重かったのです。

同じ感覚は現代人にも受け継がれており、何らかの危険を察知すると、私たちの脳はカテコールアミンなどのホルモンを分泌して全身に警戒体勢を取らせます。

そのスピードは脳の理性システムが働くよりも速く、その情報がどこまで正しいのかを判断するヒマはありません。

結果、現代人の心は機能不全を起こし始めました。危険に満ちた原始の世界では役に立った警戒システムが、安全が増した現代ではうまく働かなくなったのです。

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代表的な例はフェイクニュースで、マサチューセッツ工科大学の研究によれば、科学的に正確な事実は1000人以上には広まらないのに、恐怖を煽るような偽のニュースは10万人を超えて拡散されます(※8)

まさに原始の心が過敏に反応する現象の典型です。

15歳の29.8%が「自分は孤独だ」と感じる

現代人の心の機能不全には、他にも次のようなものがあります。

・孤独感

ここ十数年は「孤独感」が世界的な増加傾向にあります。

世界237カ国で約4万人に行われた調査では、若い世代ほど寂しさに悩む現象が世界中で見られ、特に個人主義の文化が知られる国ほど孤独感が強かったとのこと(※9)

2018年にはイギリス政府が「孤独は国を挙げて取り組むべき社会問題だ」と宣言したほか、日本でも「自分は孤独だ」と感じる15歳の子どもの割合が29.8%にも上ります(※10)

どれだけSNSでフォロワーの数が多かろうが、どれだけ他人と付き合っていようが、なぜか心が満たされない現代人の心性がうかがえます。

・鬱と不安

鬱と不安の増加もまた世界的な問題です。

世界26カ国で約15万人を調べた研究では、各国の幸福レベルを計測し、「現代では富裕国ほど不安障害の数が多く、国民の健康を損なっている」と結論づけています(※11)

具体的には、貧困国と富裕国では不安障害の発症率には3倍以上の差があり、やはり若年層ほどこの問題に苦しみやすいようです。

・完璧主義

もうひとつ多くの心理学者が警鐘を鳴らすのが「完璧主義」です。

ヨーク・セント・ジョン大学などのメタ分析では、日本を含む先進国から約2万5000人のデータを集め、1990年代ごろから世界中で完璧主義に悩む者が増えてきた事実を報告しました(※12)

また別の研究では、完璧主義な人ほどミスや失敗に弱く、他人の目を恐れて自死を選びやすいとのデータも得られています(※13)