日本はなぜ大きく差をつけられたのか

台湾から日本を見ていて思うことはいろいろある。

まず日本では、緊急事態宣言の発令基準が当初あいまいだったし、その後定められた基準をクリアしても「総合的判断」から宣言期間が延長されることが繰り返された。国の基準に加えて各自治体ごとの基準も乱立しており、その結果国民の間に「まだ発令しないのか」あるいは「いつまで続けるんだ」という戸惑いが生まれているように見える。

さらに宣言下の行動指標も、具体的な人数をあげて集会の規模を制限する台湾に比べれば「不要不急の外出を控える」などの単なる「自己判断による自粛要請」であり、「どういう行動はセーフで、どういう行動がアウトなのか」が分かりにくい。

濃厚接触者の追跡調査用のスマホアプリ(COCOA)や陽性者データベース(HER-SYS)も、台湾の「実聯制」よりはるかに複雑なシステムのわりに、どこまで感染拡大の抑止に役立っているのかはっきりしない。事実今年8月からの第5波の流行では、人力頼りの保健所がパンクし、濃厚接触者の追跡調査は放棄されてしまった。

可能な限り国民に情報を開示

筆者が注目しているもう一つのポイントは、台湾の保健当局が可能な限りの情報開示を国民に対して行っていることだ。

中央感染症指揮センターは記者会見やインターネットなどで、感染者の基本情報、感染者と濃厚接触したと断定された人数とその検査結果、感染者が感染確定までに立ち寄ったと証言した場所と時間帯、クラスターの発生場所とその原因と被害状況、必要であれば感染者のウイルス量を示す検査数値や感染経路の詳細(不明調査中を含む)までを逐次開示。死亡例の場合は、性別・年齢、基礎疾患の有無やその内容、感染場所、症状、発症日、感染確定日、死亡日なども詳細に公表される。

さらにクラスターが発生した施設や危険度が増している地域を地図で具体的に示し、当該地区の住人や立ち寄った人に対しては、発熱や呼吸器障害、腹痛、味覚障害などの症状が出た場合、速やかに保健所に連絡するよう勧告も行った。

5月13日に公表されたクラスター発生区域の地図。(台湾・中央感染症指揮センターより)

このような徹底した感染状況の「見える化」は、台湾の人々の危機意識の向上と抑止力にもつながっている。実際、警戒レベルを上げた当日などは、繁華街や駅から人が消え、無駄に外出する人はいなかったと報道され、町から人が消えた模様をとらえた多数の写真がメディアやネットで流れた。