日本はFAXに翻弄され、アメリカは1日で失業給付金を支給した

【竹中】新型コロナウイルス対策では、台湾がいち早くデジタルソリューションを使って封じ込めに成功しましたよね。

【村井】日本でそれができなかった理由のひとつは、基礎自治体のデジタル化が進んでいなかったから。どの地区で何人の陽性者が出たのかを把握するのは保健所の役割でしょ。でも、その報告がFAXだったんだよ。医療機関から保健所へも、保健所から各地方自治体へも。

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【竹中】いろいろと報道されて、批判されていましたよね。

【村井】そして、そのFAXの書類が東京都にドンと送られてきたから、担当部署はパンクしてしまった。だから、オンラインで情報を送ってもらおうとしても、それができる状態ではなかったみたい。それで、仕方なくFAXの受付を30倍くらいに増やして、人海戦術でデータを打ち込んでいたらしいよ。こういうのもデジタル化が進んでいないからだよね。

【竹中】そうですね。

【村井】くしくも、新型コロナで基礎自治体の脆弱さが明るみに出たんだ。だから、そもそも台湾のように「データを使って、この感染症の拡大を防ぐにはどうすればいいのか」ということを導き出す体制ができていないの。

【竹中】その、はるか前の段階ですね。症例のユニークネス(一意性)を保障する仕組みがどこにも存在していないですから。

【村井】米政府が失業給付金に600ドル(日本円で約6万2000円)を上乗せして支給すると発表したら、翌日に振り込まれたんだって。それは「ソーシャルセキュリティ(社会保障)番号」と「前年の納税の記録」と「銀行口座」が紐づいていたから。だから、日本でもしマイナンバーと銀行口座が紐づけば、少なくとも給付金を素早く支給することはできる。そして、何人が失業したかもわかる。もし、国民全員がマイナンバーカードを持っていれば、こうしたデジタル化はどんどん加速すると思うんだ。

【竹中】加速しますね。

【村井】それで、菅首相がやる気になれば、5年で台湾に近い体制はできるんじゃないかな。そうすれば、新しいパンデミックにも対応できるはず。

【竹中】というか、やらないといけないと思います。

【村井】本当はこういうことをきちんとメディアを通して伝えなければいけないと思うんだけど、今はその時間が取れないんだよ。

行政への不信感が日本のデジタル化の壁になっている

【竹中】今の日本の閉塞感の一部には、行政や政治家に対する不信感があると思うんです。それは新型コロナの陽性者数をFAXで送って、ダブルカウント(重複計上)されていたみたいな失態があったからですよね。単なる間違いじゃなくて数値統計そのものの軽視が透けて見えてしまった。それを直そうというのがデジタル庁の発足という動きにつながったと僕は思うんです。だから、今、デジタル庁に対する国民の期待は高まっているはずです。

【村井】そうだね。

【竹中】ただ、ここでデジタル庁が失敗すると、その期待を裏切ったことになるので、行政と政治の信頼がさらに失墜するわけです。そうならないようにするためには、村井さんがメディアに出ていろいろ話すよりも、「まずは『教育』と『医療』から手をつけよう作戦」を具体的に進めていった方が社会にとってはいいと思うんですよ。小中学校や保健所を早くデジタル化する方が重要だと思います。それを菅首相がきちんと理解しているかですよね。

【村井】そうね。

【竹中】それからマイナンバーについても、日本ではプライバシーの侵害の危険があるとして「すごく怪しいもの」だと思われていますが、考えてみれば“怪しい”部分は行政に対する不信感なんですよ。「統計をごまかすような役人がマイナンバーを扱って大丈夫なのか」っていう。ですから、まずはその“信頼”をしっかり築かないといけないと思います。

【村井】今は、ありがたいことに追い風というか、「やっぱり、マイナンバーと銀行口座が紐づいていると給付金などが素早く支給されるんだ」という意識が浸透しつつあるから、少しは前に進んでいくと思うけどね。