行政のデジタル化のカギは“時給1500円の大学生”

【村井】それから、なぜ、日本の役所でデジタル化が進まなかったかというと「優しいから」という面があったからだと思う。「ついてこれない人がいるから、やめておこう」という考え方をしてしまうんだ。例えば、「キャッシュレス化を進めても、現金じゃないと払えない人がいる」「クレジットカードも上手く使えない。ましてやペイペイ(PayPay)なんてとんでもない。だから、現金決済のままにしておこう」と。「メールだと見られない人がいる。だから、郵便でも送っておこう」というふうにね。日本の行政は“優しすぎる”ところがあるんだよ。

【竹中】ほめ殺しですか(笑)。

【村井】そう。だったら、それを逆手にとって日本は“もっと優しい国”になってデジタル化を進めればいい。俺が考えている作戦があるんだけど、地デジの時に“お助け隊”がすごく活躍したの。そのお助け隊を地元の大学生にやってもらう。例えば、青森県に住んでいる人がデジタル化で困ったことがあったら、青森の大学に連絡をする。すると、大学の学生のお助け隊が困っている人のところにやってきて、いろいろデジタル化の相談に乗ってくれるんだ。

【竹中】面白そうですね。

【村井】お助け隊になるには、コンピュータやネットワークの基本、ちょっとしたデータ処理などの研修を受けてもらう。きちんとした資格にする。そして、地方自治体が雇って、普通のアルバイトよりも少し高めの時給を設定する。それで「今日はこのおじいちゃんの家にお助けに行ってください」「今日はこの農家に行って設定を手伝ってあげてください」って、パソコンをつないであげる。そうすると、日本中のパソコンがネットワークにつながるわけだし、日本の大学生のITスキルも上がる。人に教えるということは、自己研鑽けんさんになるからね。

【竹中】そうですね。自分がわからないことは教えられないですからね。

【村井】それで「あ、俺、これ教えられない」ってなると、次に教えられるよう自分から勉強するようになる。

【竹中】どんどんITスキルが上がっていく。

【村井】すると、数年後に社会に出た時に彼らはコンピュータネットワークと情報処理がわかっているわけだから、日本全体のデジタル化レベルが上がるはずなんだ。

【竹中】地方のデジタル化も進みますよね。ただ、ポイントは時給を上げすぎないことじゃないでしょうか。例えば、時給とかにすると、コンピュータに詳しい人など一部の選ばれた学生のバイトになってしまいます。呼ぶ方もアプリなどの個別の専門的知識を期待してしまうかもしれない。そうじゃなくて、日本のDXをお助けするお助け隊は、研修を受ければ誰でもなれるようにしなくてはいけない。時給1500円くらいがいいんじゃないでしょうかね。

【村井】バイト代のさじ加減が難しいね。大学生のお助け隊ができれば、例えば「マイナンバーカードに銀行口座を紐づけられない」とか「マイナンバーカードをスマートフォンに入れられない」という問題が出てきた時にもお助け隊がすぐに解決してくれる。

村井純、竹中直純『DX時代に考えるシン・インターネット』(インターナショナル新書)
村井純、竹中直純『DX時代に考えるシン・インターネット』(インターナショナル新書)

【竹中】世界でいちばん優しいDXをした国になりますね。

【村井】そう。これは他の国のお手本にもなると思うんだよ。「置いてきぼりを作らない」「人と人が助け合う」「コミュニティで支え合う」というのが日本のデジタル社会が目指すところだと思うんだ。「グーグル(Google/1998年創業)がすごく儲かっている」とか「ベンチャー企業を立ち上げて大金持ちになった」じゃなくて、「みんなで助け合えるデジタル社会」が俺の目標なの。

【竹中】わかります。

【村井】10年後、20年後にはそうした社会になっていてほしい。お助け隊は、そのいしずえになると思うんだけどね。

【竹中】デジタル化社会の日本モデルですよね。

【村井】そう。これ、やれないかなあ。

【竹中】ヨーロッパや東南アジア諸国もマネするかもしれないですよ。そのマネを支援すれば国際社会でのデジタル庁の存在感が増しますね。

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