アベノミクスに「投資」というコンセプトを加味
高市氏が8月10日発売の月刊誌『文藝春秋』で出馬への意欲を表明してサナエノミクスを発表した時、マスコミの小さな扱いとは裏腹に、アベノミクスの再来を期待する経済界には好感が広がった。その内容を吟味してみよう。
高市氏は「安倍内閣では、批判を恐れずに国債を発行して『定額給付金』など巨額の財政出動を断行したが、現在は小出しで複雑な支援策に終始している」として菅内閣の経済政策を批判。
アベノミクスが掲げた大胆な金融緩和と機動的な財政出動に加え、「危機管理投資」(自然災害やサイバー犯罪、安全保障上の脅威などのリスクを最小化する研究開発・人材育成へ財政出動・税制優遇)と「成長投資」(産業用ロボットや電磁波技術など日本に強みのある技術分野への戦略的支援)を大胆に実施し、インフレ率2%を目指す方針を掲げた。
2%の目標を掲げながら実現できなかったアベノミクスに「投資」というコンセプトを加味して再挑戦しようというものだ。
高市氏が「政策が軌道に乗るまでは追加的な国債発行は避けられない」「将来の納税者にも恩恵が及ぶ危機管理投資に必要な国債発行は躊躇すべきではない」と主張するのは、財務省に近い菅首相や岸田氏への対抗心の表れである。
「美しく、強く、成長する国」を創る決意を表明
河野氏が力を入れる再生エネルギー政策については「私の地元では、山の上の畑に設置された太陽光パネルの傾斜が雨天時に地面を削る」「太陽光パネルの廃棄処分時のルール作りも必要だ」と注文。原発政策は米英で開発が進む「小型モジュール原子炉の地下立地が現実的」とした。原発再稼働を進めた安倍氏への配慮がにじむ内容だ。
とりわけ重視するのは、中国への先端技術流出を防ぐ経済安全保障の強化。「国家安全保障・投資法」や「経済安全保障包括法」を制定し、中国企業への監視・規制を強化するべきだと主張している。さいごに「美しく、強く、成長する国」を創る決意を表明。安倍氏の著書『美しい国へ』を彷彿させるキャッチフレーズだ。
小泉改革以降の新自由主義的な政策を転換して再分配を重視する岸田氏と真っ向から対立し、再生エネルギー政策を目玉に掲げる河野氏を強く牽制する高市氏。総裁選の対決構図を見越して用意周到に準備した痕跡がにじむ。「アベノミクスの継承者は私だ」と宣言しているかのようだ。