食べてからの経過時間ではなく、時刻情報の伝達が大きな意味を持つ
人間の体のすべての細胞には時計機構が備わっていますので、当然小腸・大腸にも時計機構が備わっています。一方で、腸内細菌は時計遺伝子を持っておらず、したがって宿主の我々人間の時計機構で、腸に棲んでいる細菌に時刻情報を伝えているものと思われます。
夕方から夜にかけては、腸もお休みモードになります。フラスコの中で細菌を培養する状態を考えてみましょう。フラスコを腸と考えると、腸の動きが静かになり、かつ体温も低下するので、細菌の培養条件としては悪くなり、腸内細菌も活動性を低下させていると考えられます。このようなときに腸内細菌の餌になる菊芋をもらったとしても腸内細菌は困ってしまうのです。
一方、朝は「今から腸が活発に動き始め、体温も上がり始めるぞ」という状態を、シェーカー上に載ったフラスコが揺れている状態と考え、その動きが活発になっていくときに餌が来ることになり、腸内細菌にはありがたい状態になるのではないでしょうか。
すなわち、朝食時に菊芋を食べてから約24時間後であるにもかかわらず、快便に効果的だということは、菊芋を食べてからの経過時間ではなく、体内時計支配による時刻情報の伝達が大きな意味を持つと考えられるわけです。朝食時の菊芋は消化管を通過し4〜5時間後の昼頃には腸内細菌の餌になり、腸内環境の改善が起こり、それが持続して次の日の朝の便通で、効果として表れるということです。
この実験では、便秘尺度では変化が見られましたが、菊芋を投与した効果として、pH、短鎖脂肪酸、腸内細菌の構成要素については、そのいずれを指標にしても、変化は確認できませんでした。個人間の差が大きく、菊芋の朝摂取群と夕摂取群との比較がまったくできなかったのです。
菊芋と糖尿病リスクの関連性
次に菊芋の朝摂取群と夕摂取群のそれぞれを、実験の前後で比較しました。その結果、有意な差にはなりませんでした。
そこで今度は、腸内細菌のそれぞれの種ごとの変化を調べてみました。ルミノコッカスという細菌が、朝食時に菊芋を摂取することにより、有意に低下したのですが、夕食時に摂取したときには変化がありませんでした。ルミノコッカスは空腹時血糖値や、健康診断で必ず測定するHbA1c(ヘモグロビン・エーワンシー)と呼ばれる糖尿病指標と正の相関があることから、朝食時の菊芋摂取によりこの指標が低下するなら、糖尿病のリスクが下がる可能性があります。