「平時から準備をしておいてよかったと、感染者が出て実感しました。以前から早めのPCR検査を社員には指示していたので、検査をすればいつかは無症状でも陽性反応が出る人はいる、その心づもりでいたので、実際に感染者が現れても『ついにそのときが来たか』くらいに思えて、社員にも動揺が広がらずに済みました。在宅勤務についても、週に1回でもリアルタイムで行っていたことがプラスに作用し、『明日から全員在宅』と号令をかけてもスムーズでしたね」

危機を乗り越えた社労士事務所代表の言葉だ。

やっておいてよかったこと、やっておけばよかったこと

その会社はフル在宅勤務を進めるにあたり、士業のためのシステム「シン・クライアントシステム」で外部からシステムに入る形にし、セキュリティ面の対策を強化。業務にプリンタを使いたい、家でも使えるようにしてほしいという要望が一部社員から上がったそうだが、許可していない。

「基本的にはペーパーレスでの業務運営ができるようにしていましたから、プリンタなしでも業務は可能と判断しました。システムのセキュリティを高めても、プリントアウトされたものから個人情報漏洩の危険があるので、紙を使わない、は大事にしたことです」(社労士事務所代表)

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国がリモートワークを推奨していることもあり、いろいろな業務がデジタル上で手続き可能になっている。その会社のメイン業務の1つ、助成金申請についても押印不要になっていたので、社員は会社に集わなくとも業務を遂行できる形になっていた。

また、もう1つのメイン業務、給与計算については特定の社員が担当するのではなく、ジョブローテーションの形にしていたことで、コロナで働けない人がいてもカバーできるようになっていた。

「これらの変化がなかったら、業務が回っていなかったと思います」

社労士事務所の代表は語る。業務を社員だけでなく派遣社員にお願いしていた分については、コロナで業務に関われる社員が減っても、派遣の人を増やして対応することができた。

社員を困らせた“紙”と“電話”

日本全体で感染者が増加していたのに伴い、社員同士が外食を一緒にするのは禁止していたものの、社内でのランチは禁止していなかったために、濃厚接触者を出してしまった。それは振り返ると対策しておくべきだったと、代表は語る。

「食事は完全に個食にし、ランチは一切誰かとしてはいけないと徹底しました。私自身、ランチくらいで、と軽く思っていたところがあるので、認識を改めました」

陽性反応の出た社員がたまたま訪問していたクライアントが1社あり、濃厚接触者認定されたので、その会社にはPCR検査を受けてもらっている。幸いにも陰性だったものの、これが陽性反応だった場合、顧客に多大な迷惑をかけるところだった。