経済が停滞する今も都会の生活に疲れた人が移住してくる

だが、経済の停滞が続く昨今、わざわざ土地を購入して上物を建てる人は、あまりいなくなった。バブル当時に建てられた別荘を「割安価格で」購入する人がほとんどで、移住に耐えない朽ち果てた物件になると、大幅な値下げをしても売れない場合が多いという。

バブル期に購入した上物のない別荘用地も、子供、孫、曾孫へと受け継がれていく。その過程で、長く放置されたままの所有地だけでなく、所有者が不明となった別荘用地も増え続けた。全国において、こうした用途を失った土地の総面積は、いまでは九州全域とほぼ同じ面積にも及ぶという。

「それでも」

と、増田さん。

「田舎暮らしのブームが終わったわけではありません。いまでもお子さんを自然豊かな環境で育てたいと引っ越してくる家族がいれば、奥さんを東京に残したまま、定年後の田舎暮らしを一人楽しむ男性も多くいる。若い女性が一人で移り住んでくるようにもなりました。

やはり、煩雑な都会生活で疲弊した人、人間関係の鬱陶しさに辟易した人たちが、心のオアシスを求めているのだと思います。それは昔もいまも同じでしょう。そのせいか、一人で山に移住してきた人のなかには、変わり者が多いのも事実です。彼らは近隣の住民とすれ違っても挨拶しない。話しかけても返事さえしない人もいるほどです。それほど独りでいることに飢えているのでしょう。お客さんに『人付き合いが煩わしいからここにきた』と言われれば、私のほうでも返す言葉がありませんが(笑)」

心のオアシスを求めて、自然豊かな環境に引き寄せられる。もちろん、オアシスは秩父地方に限ったことではなく、全国の保養地や景勝地に広がっている。

純粋に田舎に住みたい人、人生の逃げ道として田舎を選ぶ人

福岡県鞍手郡で「田舎不動産(株)」を営む塚本實さん。「これまで500人前後のお客さんに田舎物件を仲介した」という彼によれば、田舎暮らしに踏み切る人には、おおよそ2つのタイプがあるという。

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「1つは田舎に住みたいと純粋に思い続けてきた人たち。もう1つは人生の逃げ道として田舎暮らしを選んだ人たちです。逃げ道として選ぶパターンとしては、たとえば企業戦士として仕事に打ち込んできたつもりが、途中で出世コースから外れたり、左遷させられたりと、自分が思い描いていた未来像に裏切られた人たちです。そういった挫折感に加えて、『人生ってこんなもんか』という達観が、彼らを都会の雑踏から長閑な田舎へと向かわせるのでしょう。

団塊の世代で言えば、退職後は生まれ故郷に近い田舎に移住する人が目立ちました。生まれ故郷が懐かしい。かといって故郷に戻ったら人間関係が密になり、かえって煩わしい。それが故郷にわりと近い田舎に移住する理由だと思いますが、もちろん縁もゆかりもなく、遠くから九州の山に移住してくる人もいます。なかには、『寒いから』と、別荘地帯が豊富な長野県からわざわざ移り住んできた人もいたほどです」