僻地を巡るバラエティー番組「ポツンと一軒家」(ABC・テレビ朝日系)が人気だ。自身も山奥で暮らすノンフィクション作家の織田淳太郎さんは「これまでは『人と繋がりたい』と思う人が多かったが、SNSの普及で繋がりの弊害も明らかになってきた。『都会で群れることがいい』という価値観が崩壊しかけているのではないか」という――。

※本稿は、織田淳太郎『「孤独」という生き方』(光文社新書)の一部を再編集したものです。

投資ブームも手伝った田舎暮らし・別荘ブーム

いまも静かに続く田舎暮らし・別荘ブームは、1980年代の経済の沸騰期からスタートしたと言われている。その主役となったのが、バブル期の一翼を担った「団塊の世代」。彼らは1970年代の高度経済成長期の真っただ中を生きた人たちであり、その一部が脱サラなどによって田舎での第二の人生を選んだ経緯が目立ったという。

顕著なブームが訪れたのは2000年以降。ちょうど団塊の世代が定年を迎える時期と重なり、彼らの多くが田舎に移り住んだ。その動きに触発されて、他の年齢層が移住先として田舎に目を向けるようになったのも、同じ時期だったという。

茂みに建つ1軒の家屋
写真=iStock.com/kanzilyou
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ただし、都会からの距離や交通網の普及などによって、ブームの到来に地域的なバラツキがあることも事実である。

たとえば、関東西部に広がる秩父地方(秩父市、横瀬町、皆野町、小鹿野町、長瀞町)。西武池袋線の池袋駅から特急で約1時間20分の西武秩父駅を主要駅とするこのエリアは、埼玉県全域の約4分の1の面積を占めるが、森林率は県全体の60%以上にも達する。秩父地方がいかに豊かな自然に恵まれているかを物語っている。

秩父鉄道・秩父駅の近くで「(株)増田不動産」を営む増田喜彦さんは、「この秩父地方に限って言えば、西武秩父駅へと至る西武秩父線が開通した1969年頃から田舎暮らしの静かなブームが始まったのではないか」と言う。

「その頃から観光客がやってくるようになりましたし、都心からわりと近いこともあって、都会から移住してくる人が出てきたからです。1980年代のバブル期には、投資ブームも手伝って、土地の購入や別荘の建築が一気に増えていきました。私も毎日のようにお客さんを現地に案内していましたが、なかには現地も見ないで先に契約する人もいたほどです。

いまではその評価額も10分の1程度にすぎませんが、当時は山の奥でも坪10万円ぐらいの土地がけっこうありました。それを購入して高く転売するという『土地転がし』が流行っていたんです。

ただ、都会の喧騒を離れてのんびりしたい。誰もいないところで一人孤独に浸りたい。そういう理由で別荘を建てる人が、当時でもいることはいました。自分で沢から山水を引っ張ってきたり、井戸を掘ったり、借りた重機で土地を整地して畑を作ったり……と、自給自足的な生活を始める人も目立った。そういう意味で、昔の移住者のほうが逞しかったかもしれませんね」