「必ず需要がある」というので、提案した本人が社長となり、各社のモニターのメンテナンスを引き受ける会社をつくったのだ。

最初のうちは利益が出ていた。ところが、競合する会社が出てくると赤字に転落してしまった。

「大丈夫か?」と聞くと「早期の黒字化は難しいですね」。そこで「大けがをしないうちに戻ってこい」と諭し、会社を整理したうえで本社へ戻した。

事業は失敗したわけだが、帰ってきた彼はもともと技術がわかるうえに、アメリカに7年もいたので英語がぺらぺらになっていた。世界中どこでも技術の売り込みは英語なので、英語ができて技術の判断もできるのは貴重な人材だ。

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希望・早期退職を実施した企業数

このケースのように、失敗して会社に損害を与えたら半年間は罰として冷や飯を食ってもらうが、その後は敗者復活を認めるというのが当社のルールである。彼はいま、本社の技術統括部長に昇進し大いに活躍している。

会社は株主や役員のためだけにあるのではない。現場の従業員がやりやすい「場」を得て、いきいきと働くことが大事なのだ。

そこで私は、経営をガラス張りにし、一定以上の利益は社員に還元する方針を採っている。かつては年3回、20カ月分の賞与を出したこともある。全員同額ではなく、各人の業績を反映させてはいるが、基本は「儲かったらみんなで山分けし、苦しいときはみんなで我慢する」ということだ。

人を育てるには時間がかかる。新卒を採用しても、戦力に育つまで3年から5年は必要だ。加賀電子には定年を過ぎても働いてもらっている人がたくさんいる。

それを考えたら、ビジネスマンとして育った人を、一時の不況を理由に手放すのはもったいない。余剰人員という考え方があるのはおかしいと思う。

会社がしんどいときは、給与の減額は仕方がないとしても、人減らしはできるだけ避ける。そうして、社員全員で耐え切ることが大切だ。いずれ景気は回復する。そのときに、時間をかけて育ててきた人材がいるのといないのとでは成長力が違ってくる。ここは踏ん張りどころではないだろうか。

※すべて雑誌掲載当時

(久保田正志=構成 永井浩=撮影)