お得感をくすぐる「メガ盛り」の人間ドック

お勤めしている方の楽しみのひとつと言えば「ランチ」でしょう。オフィス街には和洋中さまざまな店が軒を並べ、店先のメニューを見ていると目移りしてしまいます。

そんなとき、「おっ、これにしようか」と気持ちがなびいてしまうポイントは「お得感」ではないでしょうか。

例えば、肉がご飯の上にどっさり乗っている「メガ盛り」。

「こんなにたくさん! とってもお得!」

私もそう思います。なんなら「食べないと損!」と焦って店に入ってしまいます。損得が最初に来てしまうと、「ホンマに今日は肉の気分?」「こんないっぱい、入る?」「この肉、どこの肉?」なんてことは、もはや関係ありません。なんせ「得」なのですから。

ランチなら「イマイチだったな」で済みますが、お得感をくすぐる「メガ盛り」は医療の分野でもすっかり定番になっています。山盛りの検査メニューを売りにしている人間ドックなどは日本中にあります。

数年前のことです。ある自治体の検診を受託している某クリニックに、自治体の調査が入りました。

その自治体の職員は、クリニックが配布していたチラシを見て仰天します。

自治体の検診では5項目のところ、
当クリニックではわずか○千円の追加でなんと80項目できますよ

「The・メガ盛り」な内容を大々的にアピールしていたのです。

写真=iStock.com/ChristiTolbert
※写真はイメージです

医療は患者さん一人ひとりの健康をサポートするためのものであり、その過程で人生に深く関わることもあります。患者さんとのファーストコンタクトになる可能性もある広告表現にも大きな責任が伴うのです。

「金額」は患者さんにとって気になる情報ではありますが、その表示の仕方には次のような姿勢が求められています。

――費用を強調した品位を損ねる内容の広告は、厳に慎むべきものとされておりますが、費用に関する事項は、患者にとって有益な情報の1つであり、費用について、わかりやすく太字で示したり、下線を引くことは、差し支えありません。費用を前面に押し出した広告は、医療広告ガイドラインにおいて、品位を損ねるものとして、医療に関する広告として適切ではなく、厳に慎むべきとされています。――
(「医療広告ガイドラインに関するQ&A」2018年 厚生労働省)

検査の量は必ずしも診断の質を担保しない

ちょうどその時期は病院が出す広告について法改正がおこなわれたばかりで、チラシの表現は法に抵触するのではないかと国に報告されました。

ただ、一般の方々はそんなことは読み取れません。

同じチラシを見ても「お得だ!」と肯定的にとらえてしまう方が多いでしょう。

なんせ80項目もあれば、身体のすみずみまで、それはしっかり診てもらえるような気がするではないですか。

ところが、80も検査項目があっても、それをきちんと読み取れる医者がいなければ意味がありません。そもそも、そんな大量の項目は無意味なのですが。

人間ドックの場合、検査項目が多いほどしっかり診てもらえそうな気がしますが、そういうわけではありません。

検査項目を決めているのは医者ではなく、ほとんどの場合、事務方だからです。

医学的知識がないと、「メガ盛りはウケがいい」「あのクリニックも入れてる」「ムダな検査なんてないだろう」と、やたらめったら項目を追加してしまうのです。

検査の「量」が必ずしも診断の「質」を担保するわけではないのです。