「太陽光発電のコストは原子力より安くなる」と言い出したが…
そもそも、経済界が最も注目する再エネや原発などの発電コストに関して、政府内でもまだ見解が定まっていない。
エネルギー基本計画案が発表される1カ月前の7月、経産相の諮問機関である総合資源エネルギー調査会のワーキンググループは、電源別の発電コストの試算を6年ぶりに見直した。そこでは、太陽光発電の2030年時点の発電コストは1キロワット時あたり「8円台前半~11円台後半」と、原子力(11円台後半以上)より安くなるとした。太陽光パネルなどの費用が下がるためで、逆転すれば初めてのこととなる。
原子力は6年前に示した試算では、30年時点で10.3円以上としていた。今回は安全対策費を上積みした結果、11円台後半以上と見積もった。ちなみに、洋上風力は30年時点で26円台前半と分析。20年時点の30円台前半より安くなるが、なお他の電源より高いとした。
環境省はこの試算を基に、供給面で不安のある再エネについて慎重な産業界を説得して脱炭素政策を一気に進めようとしていたが、これに梶山弘志経産相がかみついた。
送電網などを「限界コスト」として別途提示
天候に左右される太陽光は発電量の変動に備えるバックアップ電源などが必要になるため、「原子力発電は、太陽光や液化天然ガス(LNG)の発電と比べ遜色はない。風力なども含めた全体のなかでは低廉」と7月13日の記者会見で発言したのだ。
そこで総合資源エネルギー調査会が8月に改めて2030年時点の1キロワット時あたりの発電コストの試算を公表した。事業用の太陽光で8.2~11.8円になるとし、原発(30年時点で11.7円以上)など他の電源に比べて最もコストがかからないとした。しかし、電気を安定して届けるための送電網や蓄電設備への投資、天候不順などで太陽光などが発電できなかった場合に火力発電など別の電源を準備していく場合の費用を「限界コスト」と定義して、別途、参考値として提示した。
それによると、事業用太陽光は30年時点で18.9円、陸上風力は18.5円。一方、原子力は14.4円。LNG火力は11.2円、石炭火力は13.9円で、いずれも太陽光と風力を下回る結果となった。
ある自民党幹部は次のように不平を漏らす。
「原発がなければそれに越したことはないが、再エネの比率を上げるには兆円単位といわれる送電網の整備や蓄電池など、先立つ投資が必要となる。それをだれが負担するのか。その議論がすっぽり抜け落ちている。理念先行で走る環境省のやり方や官邸の議論の進め方には疑問がある」