石炭火力に代わる脱炭素エネルギーとして、アンモニア火力に注目が集まっている。基幹電源とするにはどのような課題があるのか。国際大学の橘川武郎教授は「一番はアンモニアの調達方法だ。製造時も二酸化炭素を排出しないグリーンアンモニアやブルーアンモニアの確保に向け、日本企業が動き出している」という――。
種まき直後の小麦畑に設置された無水アンモニアタンク
写真=iStock.com/TheBusman
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カーボンフリー火力に向けられる期待と疑問

2022年6月7日に公開した拙稿「世界中を悩ませる『LNGの脱ロシア化』で、欧州には不可能かつ日本にしかできない最善のエネルギー源」は、思いのほか多くの反響を頂戴した。石炭に代えてアンモニアを燃料として使うカーボンフリー火力への共感が広がる一方で、いくつかの疑問が寄せられたことも事実である。

代表的な疑問を挙げれば、「日本だけがアンモニア火力に取り組んでいるのはなぜか」「そもそもアンモニアをどのように調達するのか」「既存の火力発電と比べてコストが高くないか」「大気汚染の原因となる窒素酸化物(NOx)の排出は大丈夫か」などとなる。

本稿では、これらの疑問を手がかりにして、問題を深掘りしていく。

疑問①「日本だけがアンモニア火力に取り組んでいるのはなぜか」

この問いに対する答えを導くうえでヒントを与えるのは、電源構成の違いである。

日本は、他の先進国と比べて石炭火力への依存度が高く、その分だけ真剣に石炭火力のカーボンニュートラル化に取り組まなければならない立場にある。2021年のG7諸国の電源構成における石炭火力の比率は、高い方から順に、日本とドイツが29%、アメリカが22%、カナダが6%、イタリアが5%、イギリスとフランスが2%であった。

ドイツは、日本と同水準の高い石炭火力依存度を示したが、一方で、2021年の電源構成に占める再生可能エネルギー(再エネ)の比率は42%に達した。日本は、その比率が22%にとどまった。ドイツは、今後、再エネ比率を急速に高めることによって、2022年に原子力発電を、2030年に石炭火力発電を、それぞれ廃止する方針をとっている。

「再エネを増やして石炭火力をなくす」ができない

しかし、日本はこのような方針をとることができない。日本政府が2021年10月に閣議決定した第6次エネルギー基本計画では、2030年の電源構成を、再エネ36~38%、原子力20~22%、水素・アンモニア1%、石炭火力19%、LNG(液化天然ガス)火力20%、石油火力2%、と見通しているのである。

日本では、太陽光・風力・地熱・バイオマスといった再エネの大規模導入には時間がかかり、発電コストの低減という課題もまだ解決できていない。端的に言えば、ドイツのようなペースで迅速に再エネ比率を高めることができない。したがって、「再エネを増やして石炭火力をなくす」というドイツ式のアプローチだけでは、問題が解決しない。

日本で石炭火力のカーボンニュートラル化を実現するためには、再エネの普及だけでなく追加的な方策も講じる必要があり、その「追加的な方策」として浮上したのが、石炭火力の燃料としてアンモニアを混焼し、徐々に混焼比率を上げて、やがてアンモニア専焼火力に転換するという日本式のアプローチなのである。

G7を構成する先進国のなかで日本だけがアンモニアに取り組んでいる理由は、このような事情に求めることができる。