大気汚染物質の発生を抑えることは十分可能
疑問④「大気汚染の原因となる窒素酸化物(NOx)の排出は大丈夫か」
アンモニアの化学式はNH3であるから、このような疑問が生じるのは、当然のことである。ただし、燃料アンモニアの使用にともなうNOx排出の抑制については、技術革新が進んでいることも事実である。
例えば、燃料アンモニア活用の動きの起点となった内閣府の戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)「エネルギーキャリア」でサブ・プログラムディレクターを務めた住友化学の塩沢文朗氏は、「NOxの生成」について以下のように述べている。
つまり、NH3は燃料としても、燃焼で生成するNOxの還元剤として働くことが明らかになり、燃焼機器の設計、燃焼条件の調整によりNOxの発生が抑えられることがわかったのだ」
(戸田直樹・矢田部隆志・塩沢文朗『カーボンニュートラル実行戦略:電化と水素、アンモニア』エネルギーフォーラム、2021年、137ページ)
この点に関連しては、電力業界で最も早く2017年の7月3~9日に石炭火力の水島発電所2号機(岡山県)でアンモニア混焼の実機試験を行った中国電力の経験も、有用である。
同社は、発電機出力12万kWの状態で0.8%(1000kW相当)のアンモニア混焼を実施し、「試験を行った燃焼方法において、一定の条件の下では、窒素酸化物の濃度が下がる傾向にある、といった新しい知見が確認できたことから、本知見について特許を出願」(中国電力2017年9月8日付プレスリリース)している。
アンモニア火力を電源化する3つの課題
前回の記事でも紹介したように、日本では現在、熱効率が高く発生電力量当たりの二酸化炭素排出量が相対的に少ない超々臨界圧の石炭火力の新設が進んでいる。
こうした高技術を誇る石炭火力や化学産業、セメント産業で燃料アンモニアを活用することは、世界のカーボンニュートラル化に貢献する日本発のユニークな施策である。同様のアプローチは、2021年の電源構成における石炭火力の比率が34%に達した韓国でも、採り入れられつつある。
ただし、本稿で検討したように、燃料アンモニアの社会的実装のためには、3つの課題をクリアしなければならない。第1は、「グリーンアンモニア」と「ブルーアンモニア」を大規模に調達することである。第2は、それらのコストを少なくともLNG並みに引き下げることである。そして第3は、ハーバーボッシュ法に代わる新しいアンモニア合成技術やNOxの排出を抑制する技術を確立することである。
これらの課題を達成することは、けっして容易ではない。しかし、それを成し遂げた先には、脱炭素と安定した電力供給とが両立する素晴らしい未来が待っている。