「脱炭素」と「電力の安定供給」の両立は一向に見通せない
新型コロナウイルスの感染拡大が収束し、いち早く経済活動を再開した中国は折からの脱炭素の動きもあって、1~6月のLNG輸入量は3978万トンと前年同期比で3割近く増えた。世界最大の輸入国だった日本の同期間(7%増の3889万トン)を半期ベースで初めて抜いた。
さらに、年初のアジアを襲った寒波で中東や米国のアジア向け輸出が増えた影響で、欧州の天然ガス在庫が払底。LNGをアジアと欧州で奪い合っていることも加わり、需要期の冬場に向けて、LNG相場の高騰は続く見通しだ。
脱炭素を進めようにも、原発の位置づけがあいまいなため、再エネ比率の引き上げは数字合わせにすぎない。LNGや石油・石炭火力など脱炭素と相容れない電源がなければ、電力の安定供給を維持できないからだ。頼みの火力発電も主力のLNG価格の高騰で、電気料金の値上げにつながりかねない。「脱炭素」と「電力の安定供給」の両立は一向に見通せない。
東日本大震災による東電・福島第一原発の事故以降、原発をどう位置づけるかという議論は、「選挙」を理由にいつも先延ばしされてきた。今回もそうなる可能性が高い。内燃機関を生んだ欧州自動車メーカーでは新車販売の2割がすでに電気自動車となった。高い電気料金がかかるうえに、再エネ由来の部品を採用しない車両は輸出できないという措置が欧米で採用されれば、日本の雇用を支える一大産業である自動車を含め、日本の各メーカーは一斉に日本から逃避することになる。
震災後10年にわたる不作為のツケを払うべく、政治の覚悟が問われている。