栄養バランスに優れている広州料理

香港のお向かいは広州です。昔から「食は広州にあり」というぐらいで、ひじょうに食文化のレベルの高い地域として知られます。ですから食材は新鮮なもの、生きているものにこだわります。魚も鶏も生きているままで買って、各家庭でさばいて料理します。

また野菜や果物も豊富です。広州は温暖な気候で、農作物がよく取れますから、野菜や果物も鮮度のいいものがどんどん香港に入ってきます。さらには豆腐や豆乳といった大豆製品を日常的に摂っています。

豆腐は、海水を煮詰めて製塩した後の残液を「にがり」として使っています。このにがりには塩化マグネシウムがたっぷり含まれていて、豆腐は昔ながらの味です。それから魚です。香港は海に面しており、魚介類がふんだんに取れます。

野菜と果物、大豆、魚と長寿食材がそろい踏みしているのです。こうした長寿食は大豆文化の源流である貴州省や、野菜や果物を乾物にして多く摂る新疆しんきょうウイグル自治区など、大陸の各地から流れ込んできたものです。

写真=iStock.com/Lisovskaya
※写真はイメージです

さらにすばらしいのは「適塩」です。新鮮な食材を使うから、塩で濃い味付けをする必要がないのです。素材を生かしたあっさりした味付けです。また豊かな食材に恵まれているから、塩を使って保存食に加工する必要もありません。

だから香港のみならず、広州も高血圧の人がほとんどいません。広州にも2度調査に行っていますが、食塩の摂取量は1985年の1回目は1日で4.6グラムでした。2回目の調査は1989年で、このときはだいぶん都市化、欧米化が進んでいましたが、それでも5.7グラムでした。

広州には脳卒中についての統計はありませんが、血圧が平均107~120と低く、おそらく脳卒中は少ないでしょう。

階段や坂が多いため暮らしているだけで運動になる

香港の人の食生活は広州とほぼ一緒と考えてよく、食に関してはひじょうに恵まれた立地にあるといえます。これにさらに香港特有の事情が加わります。

狭い香港では住居はほとんどがアパートです。古いビルではエレベータがないものも少なくありません。さらに香港は立地上、坂が多いのです。つまりお年寄りも含めて、普通に暮らすだけでもかなり歩くことになり、自然といい運動になっているのです。

また香港のレストランでは、3~4世代の大家族が食事をしている光景をよく目にします。香港は土地が狭いけれど、それだけに近所に暮らしているので一族郎党がすぐに集まれるという利点があります。その中でも年長者は食卓の中心です。

儒教の教えがありますから、お年寄りは敬われ、大切にされているのです。これはほかの長寿地域とも共通する部分でもあります。香港では食生活にプラスして運動習慣、さらに「心の栄養」が長寿を支えているのです。