健康で長生きするためには何を食べるべきか。京都大学名誉教授の家森幸男さんは「長寿地域に共通していたのは、塩と脂を摂らない食生活。香辛料で味付けした羊肉や、加工した大豆などが長寿の秘訣だろう」という――。(第1回)
※本稿は、家森幸男『遺伝子が喜ぶ「奇跡の令和食」』(集英社インターナショナル)の一部を再編集したものです。
短命地域に共通する「脂と塩」という組み合わせ
シルクロードの秘境・新疆ウイグル自治区は中国の西端にあり、ウイグル族、カザフ族、モンゴル族など実にさまざまな民族が暮らしています。ここには1987年から2年にわたって調査に訪れました。
この地区はひじょうに興味深いことに、長寿地域と短命地域がはっきりと分かれているのです。まず長寿者が多いのはトルファン、ホータンといった、ウイグル族がすんでいる地域です。
ウイグルの人々はムスリムで、イスラム教を信じています。逆に短命なのはカザフ族の多いアルタイ地方。こちらはアルタイ山脈の山奥の村です。
アルタイ地方の方から行きましょう。ここではカザフ族が遊牧生活をしています。食事は主に羊の肉です。肉自体はもちろんですが、脂身の部分もそのまま食べたり、料理に使ったりなどして大量に摂取しています。
また羊のミルクや、ミルクから作ったバターやチーズも食べられていました。一方で野菜や果物はほとんど食べません。住む場所をつぎつぎと変える遊牧生活では野菜の栽培ができないという事情があるうえに、「野菜は羊の食べる草であって人間の食べるものではない」と考えられているからです。
さらに問題はお茶です。誰もがバターや塩をたっぷり入れた「バター茶」を常飲しているのです。ここにもブラジルの短命地域であるカンポグランデと同じ「脂と塩」という組み合わせがありました。この結果、ここの人たちは血圧が高く、きわめて短命でした。
50代で脳卒中になるケースも少なくなく、そもそも60代以上の人をあまり見かけませんでした。