わずか14年で平均寿命が10年も短くなったエクアドルの長寿地域

長寿地域が消滅していった例として沖縄をご紹介しました。ほかにも、すばらしい長寿文化が失われていくケースがありました。エクアドルのビルカバンバなどもその例です。

世界有数の長寿村だったのですが、「ビルカバンバで暮らせば長生きできる」とアメリカ人が大挙して押し寄せ、たくさんのリゾートホテルができたりした結果、現地の人々の生活にどんどんアメリカ文化が入ってきました。

食生活もアメリカンスタイルに変化してしまいました。そのために、わずか14年で平均寿命が約10歳も短くなるほどの衝撃的な健診データが出たのです。このビルカバンバも含め、どの地域にも共通しているのはほんの数年から十数年の間に食文化が崩壊していることです。

このようなことが起こる背景には「伝統的な食生活の崩壊」があったと述べましたが、それとセットで入り込んできたのが「グローバリゼーション」です。

経済のグローバリゼーションが起こったことにより、人やモノが驚くほどの規模とスピードで移動するようになりました。その結果、地球上のありとあらゆるものが、世界中で気軽に手に入り、食べられるようになりました。

それ自体は悪いことではないのですが、これによって「食の欧米化」が急速に進んでしまいました。特にアメリカのファストフードの普及は圧倒的でした。

世界一の長寿地域になった香港

欧米の食文化は一見、豪華で、手軽で便利です。油(脂肪)と糖がたっぷり入った食品は刺激的・魅力的です。しかも値段もかつてより大幅に安くなりました。その結果、油を大量に使ったファストフードや、砂糖がたっぷり入った清涼飲料水が、あっという間に全世界に広がって行ったのです。

私たちが調査を始めた1985年は、まだ経済のグローバル化が進んでおらず、世界中どこも、その地方の特色が色濃く残っている時代でした。そういう意味では私たちの調査は世界の各地域の伝統的な食生活を知るための最後のチャンスだったかもしれません。

世界の伝統食が失なわれ、長寿村が消滅していく中、2000年代に入ってからぐんぐん平均寿命を延ばし、ついには世界一の座に輝いたのが「香港」です。

香港のダウンタウンの夜景
写真=iStock.com/cozyta
※写真はイメージです

香港というと、アジアを代表する観光地ですが、人口密度が高く、ゴミゴミしていて、ちょっと不潔そうな印象もあり、あまり「長寿」というイメージは持たれていないかもしれません。その香港がなぜ今、長寿地域として台頭してきたのでしょうか。

私たちは中国、香港にも何度も調査に入っています。香港と言えば中華料理です。中華というと、油をたっぷり使い、味もしっかり濃いと思われていることも多いのですが、現地の人たちが日常的に食べているものは私たちの考える中華料理とは別ものです。