都医師会がイベルメクチン緊急使用を提言したワケ

第5波が深刻化する中で、イベルメクチンを自宅療養の軽症患者に緊急使用すべき、と提言しているのが、東京都医師会である。尾崎治夫会長が単独取材に応じて、その真意を述べた。

撮影=岩澤倫彦
単独取材に答える東京都医師会の尾崎治夫会長

「コロナの感染拡大は、災害というべき状況で、一刻も早く手を打たなければなりません。イベルメクチンの有効性に議論があるのは承知していますが、開業医が自宅療養の患者に投与することで救える命があるでしょう。何より重い副作用がほとんどないことが世界中で使われて分かっている。肝機能障害が起きているという指摘もありますが、一般的な市販薬にも同じ副作用があるのに、イベルメクチンだけやり玉に挙げるのはいかがなものか。

実は第3波の時、イベルメクチンの製造元であるメルク社から、東京都医師会が4万錠を買い取る交渉をしました。重い副作用に備えて損害保険会社にも話をつけましたが、メルク社が応諾しなかったので実現しませんでした」

さらに尾崎会長は、アフリカ諸国でイベルメクチンを寄生虫の駆除薬として服用した国と、していない国を比較したところ、コロナの感染者数に大きな違いがあるという分析結果から、イベルメクチンの効果だという考えを示した。

今は、非常事態であることに異論はない。ただし、アフリカ諸国のイベルメクチンとコロナの感染者数については、医療に積極的な国と、そうではない国との違いが表れたという見方もあるだろう。イベルメクチンにワクチンと同様の予防効果を期待する根拠にはならない。

処方量によっては重い副作用が出る危険もある

ところで、イベルメクチン(製品名:ストロメクトール)のパッケージには、「劇薬」と記されているのはご存じだろうか?

撮影=岩澤倫彦
『劇薬』と記載されたイベルメクチンのパッケージ

劇薬とは、「原則として、動物に薬用量の10倍以下の長期連続投与で、機能又は組織に障害を認めるもの」などに該当する薬が指定され、慎重な取り扱いが必要となる。

イベルメクチンは重い副作用が出ていないというのは、寄生虫の治療で1回、もしくは2回のみの服用の場合だ。新型コロナの治療では、イベルメクチンを1回服用するだけでなく、連続5日間の服用ケースや同時に他の医薬品を処方する医師もいる。

東京大学薬学部の小野俊介准教授は、イベルメクチンのリスクについてこう述べた。

「イベルメクチンはCYP3A4という代謝酵素で代謝される薬です。この手の代謝プロファイルの薬剤は、薬の飲み合わせや、肝機能が低下した患者で血中濃度が想定よりも高くなってしまうことがあります。治療において注意が必要な薬です」(小野准教授)