怪談は亡くなった人ともつながれる
実は、私の怪談ナイトで知り合った人、5組ぐらい結婚しているんです。毎回結婚式には「ご結婚おめでとうございます」って、ビデオも送ってますよ。
なんでも、怪談ライブが終わったあと、お客さんがみんな興奮して、近くの居酒屋で飲むらしいんだ。怪談ツアーのチラシやグッズを持っているから互いに、怪談好きって分かる。そこで「今日のあの怪談はどうだった」なんて話して、意気投合するらしいの。そんな光景を、私の知人が、ライブの帰りに目撃したそうですよ。「怪談は人をつなぐんですね」と驚いていました。
そもそも怪談って、人と人とをつなぐものでしょう。生きている人同士だけでなく、生きている人と亡くなった人をつなぐ力も持っている。
ちょっと前にね、ツアーにきた若い女性に「稲川さん、幽霊に会えますか?」と聞かれたんですよ。私は「誰に会いたいの?」と何気なく聞いたんだ。そしたら「両親に会いたい」って。ドキッとしちゃって……。若いのに、ご両親を亡くされているのか、と。それで、私、こう話したんですね。
「実際に会うことはできないけど、会いたいと思えば、会えるかもしれない。自分のなかにきっとご両親は生きていますから。あなたも、もう少し年齢を重ねれば、自分のなかにいるご両親に気づけるはずですよ」
そうなんですよね。生きているこちら側が、相手を思っていれば、亡くなった人はずっとこちらに残っているんです。
会ったことのないおじさんを身近に感じることができた理由
私は、戦争の怪談をよくするんですが、それも同じなんですよ。うちのオヤジは5人兄妹の長男で、弟3人はみんな海軍に行って亡くなっている。3番目が「ショウゾウ」という名前で非常に優秀な人だったそうです。
ある日、私のおばあちゃんが玄関に男の人がきているから、私のオフクロに見に行ってくれと言った。オフクロが行くと誰もいない。そんなことが何日も続いた。
そして、ある朝、おばあちゃんが「ショウゾウが死んだ」と言った。夢で、真っ青な広い海に沈みかけた船から、白い服を着たショウゾウが私に向かって手を振っていた。そのとき「ドーン」って大きな音がした、と。
不思議だったのは、戦争が終わったあとにうちを訪ねてきた戦友が話してくれたショウゾウおじさんの最期と、おばあちゃんが見た夢が同じだったこと。
おじさんは船が攻撃されたあとも、最後まで残って無電を叩いて救助を呼んでいた。戦友たちが味方の船に助けられたとき、おじさんがようやく甲板に上がってきた。だけど、船はほとんど沈みかけていた。「稲川、乗れー!」と叫んだ戦友たちに向かっておじさんは、手を振ったそうですよ。
私は、戦後生まれですから、ショウゾウおじさんにはもちろん会ったことはないんだけど、おばあちゃんや、オヤジにそんな話を聞いていたから、私もおじさんを身近に感じることができたんですね。