かつて人気タレントだった稲川淳二さんは、20年ほど前から「怪談家」として活動している。その語りは「怪談」であって「ホラー」ではない。稲川さんは「怪談にはホラーと違って、人や土地の歴史、切なさや優しさがある。だから世代を超えて日本人に愛されてきた」という――。(前編/全2回)
稲川淳二さん
撮影=横溝浩孝

怪談が子守歌代わりだった

――稲川さんと怪談との出合いを教えてください。

私のオフクロが、非常に怪談がうまかったんですよ。ほんと、話が楽しくて、うまい人だったなぁ。しかも、娯楽のない時代でね、テレビもないから、子守歌代わりに怪談を聞いたもんですよ。

夏休みになると、私の家に泊まりにきた近所の子どもたちに、オフクロが「ギー」とか「カランコロン」とか擬音を交えて怖い話をする。そのたびに「きゃー」って、みんな大喜びでした。だから私の怪談の原点は、オフクロなんですね。

――怪談は、時代が変わっても、世代を超えて日本人に愛されてきましたが、どんなところに魅力があるのでしょう。

幽霊の手振りをする稲川さん
撮影=横溝浩孝

怪談って、夜の海岸や、雪深い山村が舞台になっているでしょう。私は東京の恵比寿で生まれ育ちましたが、怪談で語られる風景に、故郷やふるさと――日本の原風景を感じる気がするんですよ。

怪談を聞いていると、夏の夜風や、山の緑、雪の冷たさが感じられると言えばいいのか。怪談は、みんなの記憶や懐かしさとつながっているんじゃないかな。

それに、怪談には、人間のいろんな思いがこもっているでしょう。遂げられなかった願い、悔しさ、恨み、愛する人を残して逝ってしまった無念、あるいは、亡き人を思う切なさ……。そんな繊細な思いに、みんなが共感できたから、語り継がれてきたんじゃないかって思うんだ。

だから、怪談は、ただ怖いだけじゃなく、切なくなったり、悲しくなったり、優しい気持ちになれたりする。怪談は、感受性が豊かじゃないと楽しめないし、語れないと思うんですよね。