因縁を感じてドキっとした瞬間
ひとつ例を挙げるとすれば、こんな話があります。私が子どもの頃、竹馬の友の家に遊びに行ったんです。ヤツのお父さんがこんな話をしてくれた。
お父さんが子どもの頃、友だちと森に遊びに行った。そしたら、木から足が二本ぶら下がっている。お父さんは、その足に抱きついて、ブランコみたいにブラン、ブランしながら遊んだって言うんですよ。実は、それ、首つり死体の足でね。
あの話は、子ども心に、ショックだったなぁ。
それから私が大人になり、お父さんが入院したと言うので、病院にお見舞いに行ったんだ。そこで私は「このままじゃ命が危ないから両足を切断する」って聞かされた。
その瞬間、昔の記憶がふっと蘇って、ドキッとした。
子どもの頃首つり死体の足で、遊んだお父さんが、足を切断する。なにかの因縁を感じたんだ。友だちには言えなかったけど……。
首つりの足と、両足の切断。そのふたつをムリにつなげる必要はないんだけど、私にはどうしても無関係だとは思えなかったんですね。
若い怪談師に物申したいこと
――稲川さんは、そこに因果を感じたわけですね。
最近、実話怪談ってよく聞くようになりましたよね。不思議な体験をした人から直接、聞いたお話を、そのまんま披露する若い怪談師が増えた。怪談をする若い人が、増えるのはとてもうれしいんだけど、「ここでこういうことがあった」と語るだけでは、ただの報告でしょう。なんで、そんな不思議な現象が起きたのか。なぜ、そんな幽霊が見えたのか。もっと足を使って土地の風習や歴史を調べて、想像して、語らないと。私も、若い人たちにそんな注意を偉そうにするようになったんですよ(苦笑)。
――そういえば、人気怪談作家の黒木あるじさんが、怪談の世界で稲川さんは、野球界の長嶋茂雄のような存在だと話していました。
それは、うれしいなぁ。コロナが終わったら、飲みに行こうって言っておいてくださいよ。
この数年は、怪談ブームで、いろんな怪談コンテストや、イベントが開かれるようになったでしょう。昔は怪談やるのなんて、私、ひとりだったから……。本当にうれしくってね。怪談をたくさんの人が楽しんでくれているんだなぁ、って。
(後編に続く)