因縁を感じてドキっとした瞬間

ひとつ例を挙げるとすれば、こんな話があります。私が子どもの頃、竹馬の友の家に遊びに行ったんです。ヤツのお父さんがこんな話をしてくれた。

お父さんが子どもの頃、友だちと森に遊びに行った。そしたら、木から足が二本ぶら下がっている。お父さんは、その足に抱きついて、ブランコみたいにブラン、ブランしながら遊んだって言うんですよ。実は、それ、首つり死体の足でね。

胸に手を当てて話す稲川さん
撮影=横溝浩孝

あの話は、子ども心に、ショックだったなぁ。

それから私が大人になり、お父さんが入院したと言うので、病院にお見舞いに行ったんだ。そこで私は「このままじゃ命が危ないから両足を切断する」って聞かされた。

その瞬間、昔の記憶がふっとよみがえって、ドキッとした。

子どもの頃首つり死体の足で、遊んだお父さんが、足を切断する。なにかの因縁を感じたんだ。友だちには言えなかったけど……。

首つりの足と、両足の切断。そのふたつをムリにつなげる必要はないんだけど、私にはどうしても無関係だとは思えなかったんですね。

若い怪談師に物申したいこと

――稲川さんは、そこに因果を感じたわけですね。

「稲川淳二の階段ナイト 2021」のフライヤー
「稲川淳二の怪談ナイト 2021」のフライヤー

最近、実話怪談ってよく聞くようになりましたよね。不思議な体験をした人から直接、聞いたお話を、そのまんま披露する若い怪談師が増えた。怪談をする若い人が、増えるのはとてもうれしいんだけど、「ここでこういうことがあった」と語るだけでは、ただの報告でしょう。なんで、そんな不思議な現象が起きたのか。なぜ、そんな幽霊が見えたのか。もっと足を使って土地の風習や歴史を調べて、想像して、語らないと。私も、若い人たちにそんな注意を偉そうにするようになったんですよ(苦笑)。

――そういえば、人気怪談作家の黒木あるじさんが、怪談の世界で稲川さんは、野球界の長嶋茂雄のような存在だと話していました。

それは、うれしいなぁ。コロナが終わったら、飲みに行こうって言っておいてくださいよ。

驚いた表情の稲川さん
撮影=横溝浩孝

この数年は、怪談ブームで、いろんな怪談コンテストや、イベントが開かれるようになったでしょう。昔は怪談やるのなんて、私、ひとりだったから……。本当にうれしくってね。怪談をたくさんの人が楽しんでくれているんだなぁ、って。

(後編に続く)

(聞き手・構成=山川徹)
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