「パーパスとは何か」と数時間議論する日本企業

ところで、TEDトークで話題となった、サイモン・シネック氏の『WHYから始めよ!』(原題『Start with Why』)も、この「そもそも思考」と同じスタンスの思考法です。

彼は、WHAT(何をするか?)、HOW(どうするか?)から発想していた従来の安易な思考をやめ、「WHY(なぜそれをやっているのか?)を起点に、Purpose(パーパス/存在する意義)」から発想することで、企業やビジネスが革新すると説いています。

WHYから考えれば、「安易なゴール」にしばられないため、効果も出やすく、かつシンプルな思考法なので、欧米で大流行したわけです。

ただ、日本人にとって「WHY」や「Purpose」は使い慣れている言葉ではないため、誰もがすぐにビジネスに活用できるかと言えば、そうではないかもしれません。

事実、「パーパスとは何か?」という議論を数時間している会議にオブザーバーとして参加して結局何も決まらなかったという苦い経験もあります(笑)。

それに対して「そもそも思考」は、日本語ゆえに考えやすく、本質的な課題やゴール(後で解説する「ビジョン」)の設定もしやすいため、誰もが日々のビジネスに活かせると、僕の25年の実践経験から実証されています。

まさに、「そもそも」という言葉から始めるだけ。でも、それだけで深い考察ができ、これからのビジネスを正しい方向へと進めるための本質的な発見ができるので、絶対に使うべき思考法だと思います。

そもそもから生まれた「はなまるうどん」の意外なクーポン

さて、僕が以前に担当した「はなまるうどん」でも、この「そもそも思考」は活躍しました。

オリエンテーションで最初に聞いた仕事の課題は、「50円引きの紙のクーポンを発行するから、それのデザインを頼む」というものでした。これに「はいこれがデザイン案です」と出せば仕事は終わるのですが、「そもそも思考」だとそうなりません。

「そもそもなぜ、このクーポンを発行するのですか?」
「それは集客したいからだね」
「そもそもなぜ、この時期に、集客を?」
「春だし、新入社員とか新しい顧客を取り込まないと」
「なるほど、では新入社員を集客したいというわけですね」
「できるならそうしたいね」
「ところで、なぜ紙のクーポンにするのですか?」
「店頭のポスターだと広がりがないし、財布に入れていつでも使ってもらえればいいじゃない」
「なるほど……では、アイデアを考えてみます」

「健康保険証でサラダうどん50円引き」の広告(出所=『プレゼン思考』)

そうしてできたのが、「健康保険証でサラダうどん50円引き」のアイデアでした。春には、新入社員が健康保険証を初めて手にして財布に入れています。

それを「クーポンに見立てる」だけで50円引き施策が実現でき、かつ、新入社員などの顧客が取り込め、かつ、話題性があって広がり、かつ、健康的なサラダうどんまで売れるアイデアが生まれたわけです。

さらにこのアイデアの画期的な点は、クーポンの印刷代がかかっていないことです。クーポンも全国で展開すればバカにならない費用がかかります。でもこのアイデアなら、ポスターだけ。

しかもSNSで広がって、話題にもなるわけです。まさに、「そもそも思考」から生まれた革新的なアイデアでした。

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