やり切ったら、鐘が鳴る⁉

——宝塚を卒業することを意識するようになった天真さんが、卒業までの日々を「タカラジェンヌの終活」と名付け、やり切ったという感覚を「鐘が鳴る」と表現されていたのが印象的でした。

【天真】先輩方に「何をもってやり切ったと言えるのか」をお伺いしたときに、「鐘が鳴った」という答えが返ってきたんです。最初はピンと来なかったのですが、『金色こんじきの砂漠』で「求婚者ゴラーズ」という役を演じたとき、「たそ(天真さんの愛称)そのものの役だね!」と言われ、お客様からも「素晴らしいです!」というお声を多くいただいたんです。でも自分らしさに自信がもてずおじさん役を極めていったのに、そこで「自分らしい役」と言われることに戸惑い、迷走し、葛藤する日々を送りました。「人が見る自分」「自分が考える自分」を悩み抜いて、なんとか千秋楽までたどり着いた結果、「役づくり」における大きな達成感を得たんです。そこで「あ、今、鐘が鳴った」と。それが最初の鐘でした。

編集部撮影

——「最初の鐘」ということは、鐘はそのあと何度も鳴ったのですね。

【天真】念願だったドライアイスがたかれた舞台で踊ったとき、またマイバイブル『はいからさんが通る』にて「牛五郎」役を直談判して演じたときも、それぞれに鐘が鳴り響きました。ただどうしても鳴らすのが難しい鐘があったのです。それが、宝塚で培った経験を下級生に引き継いでいく、いわゆる「中間管理職の責務を完全に手放す」という鐘でした。そこで、大先輩である光月こうづきるうさんに、自分の思いを吐露したのです。すると「誰かが卒業すれば、誰かが担っていく。自分がいなくなったら、と思い詰める必要はない」「それより自分がどうしたいのかを考えるべき」というアドバイスをいただいたのです。そこで出た答えは「自分しか表現できない世界を創りたい」というもの。それこそが、最後の鐘でした。

——素敵な先輩方に囲まれていたのですね。

【天真】その場に佇むだけで目が奪われる天性のスター、春野寿美礼はるのすみれさんや、ストイックに舞台に挑む強さと、全員に気を配る優しさを備えた真飛 聖まとぶせいさん、王道の男役の表現を背中で見せていく、太陽のような存在の蘭寿とむさん、そして年次が近いこともあり、その存在を支えたいと心から思わされた明日海りおさん。トップスター一人ひとりが、素晴らしいリーダーシップを発揮してくださいました。

——卒業するにあたって、仲間からの支えも大きかったと思います。

【天真】ありがたいことに、面倒見のいい人々に囲まれて生きてきました。「これやっておいたよ。どうせやってないでしょ?」と、察して先回りしてくれる人たちばかり。そこで私は、彼ら彼女らがやってくれたことをメモしておくようにしたのです。すると、自分の「できないこと」がわかります。若いときは「なんでもやります! できます!」が存在証明でも、年齢を重ねればそうはいきません。たとえば私の場合は、「納期の把握がめちゃくちゃできない人間です。なので、恐ろしいほどリマインドしてもらえますか?」という具合(笑)。30代を迎えた今、「できないことを先に伝える」重要さを実感するようになりました。