なおツズラ発電所からのGE撤退を受け、計画を請け負った中国企業群は代わりの企業の採用を提案したが、ボスニアがそれを拒否した。恐らく提案された企業が中国資本であっため、ボスニアが対中依存度の上昇を警戒し提案を断ったのだろう。一方、中国企業群はボスニアが新たな解決方法を提示しない限り、契約を破棄すると主張している。

このまま契約が破棄されれば、ボスニアは発電効率に劣る老朽設備で発電を継続せざるを得ない。経年劣化に伴う発電効率の低下は免れず、温室効果ガスの排出は増え、慢性的な電力不足に陥る危険性が意識される。最新鋭の石炭火力発電所を導入できない後発国は同様の悩みに直面するわけだが、そのことを欧米は一体どう考えているのだろうか。

EUに問われる後発国の気候変動対策支援の覚悟

自国に石炭がある後発国であれば、石炭火力発電に注力すること自体、経済性を考えたら自然なことだ。それを否定して再生可能エネルギーを普及させたいなら、議論を主導する欧米は支援を強化すべきだ。EU加盟を目指すボスニアの場合、それこそEUが開発支援に名乗りを上げるべきであるにもかかわらず、そうした態度をEUは見せない。

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そもそも気候変動対策は、その国の所得水準や発展段階に応じて行われるべき政策ではないだろうか。しかしEUは、主要先進国と同様の条件を後発国に広めようと躍起になっている。EUが7月14日に提示した包括的な気候変動対策法案の中で言及されている「国際炭素税(国際炭素調整メカニズム)」の構想など、その端的な例だ。

こうしたEUの後発国に対する態度は、「カネは出さないがクチを出す」という従来の性格と全く変わっていない。いわゆる「17+1」という枠組みそのものには綻びが顕著だが、中東欧の諸国が中国に好感を寄せたのは、中国が潤沢な「カネ」を出したからだ。罰則的なインセンティブを設計したところで、後発国の心に訴えかけることなどできない。

EU各国は気候変動に関する国際連合枠組条約(UNFCCC)に基づき設立された緑の気候基金(GCF)などを通じて、後発国の気候変動対策に対して支援を行っている。とはいえそれが不十分だからこそ、後発国には不満がたまっている。EU流の締め付け一辺倒の気候変動対策では、後発国の信頼を失うばかりではないだろうか。

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