経済が伸びなければ賃金も伸びない
賃金の下押し圧力として考えられるのは、なんといってもマネーの不足だ。後述するとおり、外国人労働者の受け入れを主な要因と考える人が多いが、本質ではない。90年代以降、失われた時代における当時の日銀の無策が導いたものなのだ。
そもそも、名目賃金は一人当たり名目GDPと同じ概念なので、名目賃金が低いのは、名目GDPの伸びが低いからということになる。日本の名目GDPが1990年からほとんど伸びていないことは、他の先進国と比べても際立っている。世界でもっとも低い伸びだ。名目経済がそれほど成長していないわけなので、その成果の反映である賃金が伸びないのは、ある意味で当然ともいえる。
経済が伸びなければ賃金も伸びない。賃金が低いのは、90年代からの「失われた時代」の象徴と言っていいだろう。
「90年代以降の30年間」と、「90年より前の30年間」を比較すると、名目GDPの伸び率とマネーの伸び率は一貫して相関があることがわかる。筆者の推計では、名目GDPともっとも相関が高いのがマネー伸び率だ。各国のデータでみても相関係数は0.7~0.8程度もある。
具体的にいうと、「90年の前の30年間」では、日本のマネーの伸び率は、データが入手できる113カ国中46位と平均的な位置にある。一方「90年以降の30年間」では、日本のマネーの伸び率は148カ国中、なんと最下位である。結果、名目GDPの伸び率も最下位だ。
しかし、ここまで読んできた読者ならわかるはずだ。マネーの伸び率は、日銀が金融政策でマネタリーベースを増やすことでコントロールできるのだ。それをしてこなかった前の日銀(白川総裁時代)の罪は重い。デフレのA級戦犯は中央銀行なのだ。
賃金が上昇しない理由に、外国人労働者の受け入れも多少は影響しているが、それは本質ではない。本質はやはり、中央銀行の無策だったのだ。このことをもってしても、よくも悪くも、国民生活に日銀の政策が大きく影響していることがわかることと思う。