なぜ金融緩和を減速してしまったのか
賃金上昇率は本来、「インフレ率+生産性向上分」が望ましく、生産性が低い仕事より、高い仕事のほうが、賃金の上昇率も確保できて当然だ。付加価値の高い商品開発をしたり、同じ製品でも低コストでの製造を実現したりする仕事のほうが、そうでない仕事よりも、インフレ率に勝つだけの給料を貰えるのが理想だろう。
ベースアップ交渉でも「生産向上分」が交渉材料になる。つまり、生産性向上を維持できていれば、賃金の上昇率はインフレ率より、生産向上分だけ高くなるということだ。もちろん、実際には個別事例で事情は異なるだろうが、産業全体としてみれば、インフレ率の上昇が給料アップにつながっていくのである。
つまり、アベノミクスで進められた大胆な金融緩和策は、そこへ向けて正しくすすんでいたはずなのである。
野党が本来行うべきだった追及
話を外国人労働者の受け入れに戻すと、野党もどうせ追及するならば、いまのような理論をもって与党を追及すべきだった。この法案改正が移民政策かどうかなどという、ズレた話をしている場合ではなかったのだ。
「雇用環境がせっかく良好なのに、この改正法案がどんな影響をもたらすのか」「賃金上昇の動きに水をささないか」という本質的な質問をすべきだった。「労働者の味方」を標榜するなら尚更だ。しかし、それがまったくできていなかった。
すでに日本には、少なくない外国人労働者がいた。実は安倍政権になってからも、すでに外国人労働者は70万人から130万人へと、60万人も増えていたのだ。そのうち雇用環境に大きな影響を与えるとみられたのが、30万人の留学生アルバイトと25万人の技能実習生だが、安倍政権で増やしたのが、それぞれ20万人と10万人だ。そこへさらに、2019の5年間で最大34万人を受け入れると決めたのである。
賃金の動向を見る限り、そんなにあわてて外国人を受け入れるほど、本格的な人手不足になっていないと考えたのは筆者だけではないだろう。
賃金が上がらずに喜ぶのは製造や流通などの産業界だ。実際、政府方針は、産業界からの意向だけで進められていた気配がある。賃金を上げたくないという産業界の願望に沿う形で、外国人労働者を受け入れたことが、ようやく動きはじめていた賃金上昇圧力を弱めてしまったとしたら、これほど無念なことはない。
繰り返しになるが、金融政策とは雇用政策であり、失業率の低下は経済成長とほぼイコールだ。政権ができるマクロ経済対策の目的が雇用の確保である以上、それさえできれば及第点であるという考えは変わらない。
もし、あのまま賃金が上がっていたら、筆者がアベノミクスにつける点数は100点だっただろう。