ハイチは、西半球で最悪の部類に入る貧困や暴力、政治不安に見舞われている。食料品や燃料も手に入りにくく、インフレやギャングによる暴力が急増。労働者の60%は収入が1日2ドルに満たない。独裁体制や政局の混乱の歴史に加え、2010年の大地震と2016年の大型ハリケーン「マシュー」の被害からの復興もまだ完了していない。
そして起きた今回の大統領暗殺事件とその後の混乱に、ハイチ国民や海外で暮らす彼らの親族・友人たちは、今後の展開を懸念している。
マイアミのリトルハイチ地区に暮らすハイチ人コミュニティーを支援している団体「ファミリー・アクション・ネットワーク・ムーブメント」の事務局長であるマーリーン・バスチャンは、「現地で権力の空白が生じており、人々は家族や友人がどうなるのかと恐れている」と語った。
憲法改正に反発が高まっていた
バスチャンは、ハイチで自由で公正な選挙が実施されるように、ジョー・バイデン大統領率いる米政権がこれまで以上に積極的な支援を行って、ハイチ国内の対話を促していくことが重要だと述べた。彼女はまた、海外に暮らすハイチの離散民たちが、その対話に参加できることを願っているとも語った。「一時しのぎの対応はもういらない。ハイチの人々はあまりにも長い間、苦しんできた」
ハイチではこの数カ月、モイーズに抗議する運動が拡大して暴力に発展していた。モイーズは大統領の権限を強化する憲法改正案を推し進めており、秋には憲法の是非を問う国民投票を計画していたが、複数の野党指導者とその支持者たちはこれを拒否していた。
モイーズ暗殺から数時間が経過しても、首都ポルトープランスでは公共交通機関の運行も露天商の姿もまばらな状態が続いていた。普段は大勢の人でにぎわっているこの地域では異例の光景だ。断続的に鳴り響く銃声は、ギャングの勢力伸長を思い起こさせる。6月だけでも1万4700人を超える人々が、領土をめぐる争いの中で自宅を焼かれたり、荒らされたりして避難を余儀なくされた。